「中小ドル(チュンソドル)」とは? ― 雨漏りの宿舎から初1位へ。INFINITE・VIXX・B1A4・EXID・Brave Girls、そしてBTSまで「中小の奇跡」の物語

K-POPの話をするとき、SM・YG・JYP、そして今ではHYBEを加えた「大手」の名前ばかりが出てくる。しかし韓国のアイドルの大半は、そこに属していない。名前も聞いたことのないような小さな事務所から出てきて、宿舎の雨漏りに耐え、音楽番組の出演枠を取るために頭を下げ、それでも一曲で運命を変えたグループたちがいる。韓国のファンはそういうグループを「中小ドル(チュンソドル・중소돌)」と呼ぶ。中小企画社(중소기획사)出身のアイドル、という意味だ。今回は、INFINITE、B1A4、Block B、VIXX、EXID、GFRIEND、Brave Girls、そしてBTSまで――「中小の奇跡(중소의 기적)」と呼ばれた物語を、動画と一緒に追いかけていく。

1. 「中小ドル」とは何か ― 大手と中小の差はどこにあるのか

韓国のアイドル業界は極端なピラミッド構造である。頂点にSM・YG・JYP・HYBEの4社があり、その下に数百の中小事務所がひしめく。大手と中小の差は、単に資金の多寡ではない。まず放送局との関係が違う。音楽番組の出演枠、バラエティのキャスティング、ドラマのOST参加といった露出の機会は、大手のマネージャーの人脈で決まる部分が大きい。次にお金。ミュージックビデオ一本で数千万から数億ウォン、アルバム制作費、衣装、ダンスチーム、宿舎――中小事務所にとってアルバム一枚は「会社の全財産を賭ける」に等しい。そして最大の違いは「失敗の許容度」である。大手なら一枚こけても次がある。中小は一枚こけたら会社ごと消える。

だから中小ドルの物語には、必ず「一曲で全てが変わった瞬間」がある。そしてファンは、その瞬間を自分たちが作ったと感じている。これが日本の芸能事務所文化と決定的に違う点だ。韓国では「うちの子たちは中小だから(우리 애들 중소라서)」という言葉が、自嘲と誇りの両方を込めて使われる。

2. INFINITE ― 雨漏りする半地下から、デビュー1年3か月で初の1位へ

2010年6月、Woollim(ウリム)エンターテインメントからデビューした7人組INFINITE(インフィニット・인피니트)は、中小ドルの原型のような存在だ。当時のWoollimは社員数人の小さな会社で、メンバーはソウル・望遠洞(マンウォンドン)の古い半地下に住んでいた。雨が降ると天井から水が漏れ、壁紙が剥がれ、コンクリートの欠片が落ちてきたという逸話は、後にバラエティで何度も語られている。

武器は「カルグンム(칼군무・刀のように揃った群舞)」だった。金がないなら体で勝負する、という発想である。7人の動きをミリ単位で揃えるスタイルは、2011年7月の1stフルアルバム《Over the Top》のタイトル曲「Be Mine(내꺼하자)」で完成し、同年9月1日、Mnet「M COUNTDOWN」でデビュー約1年3か月にして初の1位を獲得した。ステージ上でメンバーが号泣し、何をしていいか分からず立ち尽くす映像は、今も中小ドルの「初1位」の象徴として引用される。社長は「音楽番組で10位以内に入ったら宿舎を移す」という約束を果たし、彼らはようやく半地下を出た。

翌2012年の「The Chaser(추격자)」はその年のK-POPを代表する曲の一つになり、Woollimは2013年にSM C&Cと合併して一時SM傘下に入るという、中小ドルとしては珍しい展開を辿った(2016年に再び独立)。中小から出発し、大手の中に入り、また中小に戻る。INFINITEの歩みはそのまま韓国の事務所地図の縮図である。

3. B1A4 ― ウェブ漫画から生まれた「畑のアイドル」

2011年4月、WMエンターテインメントからデビューしたB1A4(ビーワンエーフォー・비원에이포)は、デビュー前の売り方からして中小的だった。事務所にはメンバーの顔を大々的に出す予算がなく、代わりにウェブ漫画風のキャラクターを先に公開して話題を作った。メンバーの多くが地方出身で、ソウルの人間が一人もいないという理由で「畑のアイドル(시골돌)」というあだ名がついたが、彼らはそれを逆手に取って親しみやすさを武器にした。

特筆すべきはリーダーのジニョン(진영)が早くから作詞作曲を手掛け、事務所に作曲家を雇う金がない分をメンバー自身で埋めたことだ。2013年5月の「What‘s Happening?(이게 무슨 일이야)」でデビュー2年目に初の1位。「自作曲で1位を取った中小ドル」という物語は、後にセルフプロデュース型グループが増える先駆けになった。WMは2021年にRBW(MAMAMOOの事務所)に吸収され、ここでも「中小同士が合併して生き残る」というパターンが見られる。

4. Block B ― 精算されなかった収益、裁判、そして事務所ごと移籍

中小ドルの物語には、必ず「金」をめぐるトラブルが出てくる。2011年にStardom(スターダム)エンターテインメントからデビューしたBlock B(ブロックビー・블락비)は、その典型である。プロデューサー出身の趙PD(チョPD)が「ヒップホップアイドル」として企画したグループで、リーダーのZICO(ジコ・지코)の存在感は当初から突出していた。しかし2012年、タイのインタビューで洪水被害に触れた不適切な発言が大炎上し、活動休止に追い込まれる。

さらに2013年1月、メンバーは「収益が正しく精算されていない」として、事務所を相手取り専属契約効力停止の仮処分を申請した。5月に申請は棄却されたが、その後の交渉で同年8月、メンバーの契約は新設の事務所Seven Seasons(セブンシーズンズ)に譲渡される形で決着した。事務所ごと「引っ越す」というこの解決策は、以後の中小ドルの契約トラブルで一つの前例になっている。

その後のBlock Bは「HER」「Very Good」などで人気を確立し、ZICOは2018年にグループを離れ、自身のレーベルKOZを設立。そのKOZは2020年にHYBEに吸収された。中小事務所で揉めた本人が、最終的に業界最大の会社の一員になる――韓国芸能界の流動性を、これほど分かりやすく示す例はない。

5. VIXX ― 顔と金で勝てないなら「コンセプト」で勝つ

2012年にJellyfish(ジェリーフィッシュ)エンターテインメントからデビューしたVIXX(ヴィックス・빅스)は、中小ドルの戦略をもっとも意識的に突き詰めたグループである。Jellyfishはバラード歌手中心の小さな事務所で、アイドルを出すのは初めてだった。ビジュアルの派手さや制作費で大手に勝てないなら、誰もやらないコンセプトをやるしかない――そうして生まれたのが「コンセプトドル(컨셉돌)」という呼び名だ。

2013年の「On and On(다칠 준비가 돼 있어)」ではヴァンパイア、そして同年11月の1stフルアルバム《VOODOO》のタイトル曲「Voodoo Doll(저주인형)」では、身体に針を刺された呪いの人形そのものになった。ミュージックビデオはあまりに残酷で、放送用にクリーン版を別に作らなければならなかったほどである。

2016年には「Zelos(嫉妬)」「Hades(冥界)」「Kratos(力)」というギリシャ神話三部作《VIXX 2016 CONCEPTION》を半年で完走し、「Dynamite」ではジェラシーの神をテーマにした。ジキルとハイド、時間旅行者、サイボーグ、東洋の花郎(ファラン)――VIXXがやったコンセプトの一覧は、そのまま「大手がリスクを避けてやらなかったこと」の一覧でもある。

6. 直撮り(チッケム)が運命を変えた ― EXIDとGFRIEND

中小ドルの逆転劇に、2014年以降は新しい武器が加わった。ファンがスマートフォンや一眼で撮った「直撮り(チッケム・직캠)」である。事務所が金を出して作るMVではなく、観客席から撮った一本の動画が、グループを救うことがある。

最初の事例が2014年のEXID(イーエックスアイディー・이엑스아이디)だ。同年8月に発表した「Up & Down(위아래)」は当初まったく売れず、グループは解散寸前だった。ところが10月8日、京畿道・坡州(パジュ)で行われた軍の慰問公演で、ファン「pharkil」が撮影したメンバー・ハニ(하니)の直撮りがネットで爆発的に拡散する。公開から数か月で再生数は2,000万回を超え、発売から4か月以上経った曲が音源チャートを「逆走行(역주행)」し、2015年1月、ついに音楽番組で1位を獲得した。「一本の直撮りが曲を1位にした」初めての事例である。

翌2015年にはGFRIEND(ヨジャチング・여자친구)が続いた。9月5日、江原道・麟蹄(インジェ)で行われたSBSラジオの公開放送は雨だった。濡れて滑るステージで、メンバーは「Me Gustas Tu(오늘부터 우리는)」を歌いながら合計8回以上転倒し、それでも一度も曲を止めずに踊りきった。この直撮りは1,000万回以上再生され、無名だった新人グループは「転んでも立ち上がる子たち(꽈당 소녀)」として一気に知られることになった。事務所Source Musicは当時、社員数人の中小事務所だったが、この後2019年にHYBEに買収される。

7. Brave Girls ― 解散会議の当日に始まった、4年遅れの逆走行

逆走行の極端な例が、2021年のBrave Girls(ブレイブガールズ・브레이브걸스)である。彼女たちの「Rollin‘(롤린)」は2017年3月に発表され、ほぼ誰にも聴かれなかった。その後4年間、グループは主に軍部隊の慰問公演を回り続け、2021年2月には事実上の解散が決まっていた。

2月24日、YouTubeチャンネル「비디터(VIDITOR)」が、軍部隊での「Rollin‘」の公演映像にネットのコメントを重ねた「コメントまとめ(댓글모음)」動画を公開する。「除隊後もこの曲だけは忘れられない」「軍隊で一番人気の曲」といった元兵士たちの証言が並ぶこの動画は瞬く間に広がり、3月5日夜、「Rollin‘」はメロン(Melon)のリアルタイムチャートでIUの「Celebrity」を抜いて1位に立った。メンバーが「解散について話す」ために集まる予定だった週に、彼女たちは代わりに「再始動」を話し合うことになった。翌週から音楽番組で1位を獲り続け、最終的に7冠に達している。

8. BTS ― 「中小ドル」が会社ごと最大手になった唯一の例

ここまで読んで、「では中小ドルの最終形は何か」と思うかもしれない。答えは一つしかない。BTS(防弾少年団・방탄소년단)である。2013年6月にデビューした当時のBig Hit(ビッグヒット)エンターテインメントは、社長のパン・シヒョク(방시혁)がJYPを出て作った小さな会社で、社員はわずかだった。デビュー曲「No More Dream」は、大手のグループが並ぶ音楽番組でほとんど注目されず、初期のBTSはネットで「흙수저 아이돌(土のスプーン=貧乏育ちのアイドル)」と揶揄されていた。

その後の展開は説明の必要がないだろう。2016年以降のBTSの爆発とともにBig HitはHYBEに改名し、Source Music(GFRIEND)、Pledis(SEVENTEEN)、KOZ(ZICO)を次々と買収、2021年には時価総額でSMを抜き、韓国最大の芸能企業になった。中小ドルが大手に「拾われる」のではなく、中小ドルが会社を大手に変えた――この一例があるからこそ、今も無数の中小事務所が「次のBTS」を信じて練習生を育てている。

9. 日本の読者へ ― 「中小ドル」という言葉の温度

日本のアイドル文化にも大手と弱小の差はあるが、韓国の「中小ドル」には独特の感情が乗っている。ファンは「うちの子たちは中小だから番組に出られない」と嘆きながら、同時に「大手の金の力ではなく実力で上がってきた」という誇りを持つ。カムバックの間隔が一年以上空いても待ち、音源を買い、直撮りを撮って拡散する。中小ドルのファンダムは、事実上グループのプロモーション部門を無償で担っているのだ。

一方で現実は厳しい。中小ドルの大半は「魔の7年(마의 7년・専属契約の標準が7年であることから、7年目に解散や脱退が集中する現象)」を越えられず、ここに名前を挙げたグループの多くもメンバーの脱退や活動休止を経験している。それでもINFINITEは2023年に自社レーベルを作って再結成し、B1A4は3人で活動を続け、Brave Girlsは名前を変えて再出発した。一度「中小の奇跡」を経験したグループは、簡単には消えない。

まとめ

大手の練習生システムが「工場」だとすれば、中小ドルの物語は「賭け」である。雨漏りする宿舎、精算されない収益、解散会議の日程――そのすべてを一曲、あるいは一本の直撮りがひっくり返す。韓国のファンが「中小ドル」という言葉に込めるのは、その賭けを一緒に打った当事者としての感情だ。次に音楽番組で知らない名前のグループを見かけたら、その事務所の名前を検索してみてほしい。そこにはたいてい、まだ語られていない「中小の奇跡」の途中経過がある。

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