韓国旅行中に熱を出した、韓国に住み始めて最初の病院が不安、夜中に子どもが吐いた――そういうとき、日本の常識のまま動くと損をする。韓国の医療は「安くて速いが、仕組みが違う」からだ。この記事では、病院の種類、健康保険の有無で何が変わるか、救急外来(応急室・응급실)の使い方と費用、夜間・休日、薬局、日本語対応、そして2024年以降に変わったルールまで、現地で暮らす立場からまとめておく。
1. 韓国の病院は4段階 ― まず「의원(医院)」に行く
韓国の医療機関は、規模の小さい順に「의원(ウィウォン・医院)」「병원(病院)」「종합병원(総合病院)」「상급종합병원(上級総合病院=大学病院クラス)」の4段階に分かれている。日本の「クリニック」にあたるのが의원で、内科(내과)、耳鼻咽喉科(이비인후과)、小児科(소아청소년과)、整形外科(정형외과)、皮膚科(피부과)などが街のビルの2〜5階にひしめいている。看板に「○○의원」「○○내과」とあれば、それがクリニックだ。
大事なのは、風邪や腹痛でいきなり大学病院に行かないこと。上級総合病院は原則として下位の医療機関からの「진료의뢰서(診療依頼書=紹介状)」がないと健康保険が効かず、ほぼ全額自己負担になる。日本のように「大きい病院のほうが安心」という理由で大学病院に行くと、待ち時間も費用も跳ね上がる。逆に의원は予約なしで行けて、待ち時間は平均10〜20分、健康保険があれば初診の自己負担は数千ウォン(1,000円以下)で済むことがほとんどである。
2. 健康保険があるかないかで、費用は3〜4倍変わる
韓国は国民健康保険(국민건강보험)の一本制で、日本のような会社・国保の区別はない。外国人も6か月以上滞在すれば原則加入義務があり(2019年7月から)、外国人登録証を持っていれば職場か地域で加入することになる。保険があれば의원の外来で自己負担3割、薬局で3割、CTやMRIも条件を満たせば保険適用で日本より安いことが多い。
旅行者など保険がない場合は「비급여(非給付)」扱いで全額自己負担になり、同じ診療でも保険加入者の3〜4倍程度の請求になる。それでも의원の風邪診療なら1〜3万ウォン程度、点滴や検査が加わっても数万ウォンで収まることが多く、アメリカ的な桁違いの請求にはならない。ただし救急外来は別で、後述するように一気に高くなる。旅行者は海外旅行保険に入ってから来ること、そして帰国後の請求のために「진단서(診断書)」と「진료비 영수증(診療費領収書)」「진료비 세부내역서(明細書)」を必ずもらうこと。診断書の発行は1〜2万ウォンの有料である。
3. 救急外来(응급실)― 119は無料、ただし軽症で行くと高くつく
救急車は119で、日本と同じく無料である。旅行者でも呼べるし、英語対応のオペレーターが出る場合が多い。かつて医療相談専用だった1339は119に統合されているので、迷ったら119でよい。近くの救急外来を探すには、保健福祉部の「응급의료정보제공(E-Gen)」アプリかサイトが使える。
注意すべきは費用の仕組みだ。韓国の救急外来では、まず「응급의료관리료(応急医療管理料)」という入場料のような費用が発生する。大学病院クラスだと数万ウォンで、これは診察前に確定する。さらに2024年9月からは、重症度分類(KTAS)で4〜5段階の「軽症」と判定された患者は、救急外来の費用の90%を自己負担するルールに変わった。つまり保険があっても、風邪や軽い腹痛で救急に行くと、数十万ウォンの請求が来ることがある。深夜に軽症で困ったら、救急外来ではなく後述の夜間診療を先に探すほうが賢い。
もう一つ知っておくべきなのは、2024年から続く医療界のストライキ(전공의=研修医の集団辞職)の影響で、大都市でも救急外来の受け入れが不安定になった時期があることだ。韓国語のニュースで「응급실 뺑뺑이(救急たらい回し)」という言葉を目にしたら、それを指している。119で搬送される場合は隊員が受け入れ先を探してくれるが、自力で行くなら事前に電話で受け入れ可否を確認したい。
4. 夜間・休日はどうするか
韓国のクリニックは平日は夜7〜8時、土曜も昼まで開いている所が多く、日本より夜間の選択肢は広い。それでも深夜や日曜は限られるので、いくつかの仕組みを覚えておくと役に立つ。まず「달빛어린이병원(月光子ども病院)」は、平日は深夜まで、休日も開いている小児科の指定制度で、子連れの家庭にはほぼ必須の知識だ。次に「야간진료(夜間診療)」「휴일진료(休日診療)」と看板に書いてある의원で、ネイバー地図やカカオマップで「야간진료」と検索すれば営業中の医院が出てくる。
薬だけなら、ソウルには「공공심야약국(公共深夜薬局)」という深夜1時頃まで開く薬局があり、コンビニでも「안전상비의약품(安全常備医薬品)」として解熱鎮痛剤(タイレノール)、総合感冒薬、消化剤、湿布など13品目が24時間買える。日本のドラッグストアのような大型店は少ないが、この「コンビニで薬が買える」仕組みは旅行者にとって大きい。
5. 薬局の使い方 ― 処方箋は「원외(院外)」が基本
韓国は2000年の医薬分業以降、病院で薬をもらうのではなく、処方箋(처방전)を持って外の薬局(약국)に行くのが基本になった。クリニックの入っているビルの1階には、ほぼ必ず薬局がある。処方箋は2枚出てきて、1枚は薬局用、1枚は本人保管用である。薬は日本と違い、1回分ずつ小袋に分包されて渡されることが多く、朝・昼・夕の袋に分けてくれる薬局もある。
日本と違って驚くのは、風邪で受診すると平気で5〜6種類の薬が出てくることだ。解熱剤、抗生物質、胃薬、咳止め、去痰剤、抗ヒスタミン薬――「とにかく早く治す」という韓国の医療文化がそのまま袋に入っている。抗生物質の処方率が高いことは韓国国内でも問題視されていて、不要なら「항생제는 빼주세요(抗生物質は抜いてください)」と言えば対応してもらえる。
6. 日本語が通じる病院はどこにあるか
ソウルの大型病院――セブランス病院(新村)、サムスンソウル病院(江南)、ソウル峨山病院(松坡)、ソウル聖母病院(瑞草)、ソウル大学病院(鍾路)――には「국제진료센터(国際診療センター)」があり、日本語コーディネーターが常駐または予約で対応している。費用は一般外来より高めだが、問診から会計、診断書の英文発行まで一括で面倒を見てくれるので、大きな病気や入院の際は迷わずここを使うべきだ。
街のクリニックレベルでは日本語対応はほぼ期待できないが、翻訳アプリで十分にやり取りできる。症状の言い方をいくつか覚えておくと早い。「열이 나요(熱があります)」「목이 아파요(喉が痛いです)」「배가 아파요(お腹が痛いです)」「토했어요(吐きました)」「설사해요(下痢しています)」「알레르기가 있어요(アレルギーがあります)」。困ったときは観光公社の多言語コールセンター1330(24時間・日本語可)に電話すれば、病院探しや通訳を手伝ってくれる。
7. 日本人が戸惑う韓国医療の「速さ」
韓国で初めて病院に行った日本人がまず驚くのは、とにかく速いことだ。受付で名前と電話番号を言うだけで登録が終わり(外国人登録証か旅券があればなお良い)、待ち時間は短く、CTやMRIもその日のうちに撮れることが珍しくない。内視鏡検査も予約から数日で入る。日本では紹介状と数週間の予約待ちが必要な検査が、韓国では「今日やりますか?」と聞かれる。
一方で、医師の説明が短い、診察が3分で終わる、点滴(수액)をやたら勧められる、といった不満は韓国人自身もよく口にする。「速くて安いが、丁寧ではない」――このバランスを理解して、詳しく聞きたいことはメモして持っていくのが、韓国の病院とうまく付き合うコツである。
8. 実際の流れ ― 旅行者がクリニックに行く場合
手順は単純だ。①ネイバー地図かカカオマップで「내과」「이비인후과」などを検索し、営業中の의원へ行く。②受付で旅券を見せ、「보험 없어요(保険はありません)」と伝える。③診察(翻訳アプリでOK)。④会計。カードが使える。⑤処方箋をもらい、同じビルか隣の薬局へ。⑥薬局で薬を受け取り、会計。⑦保険請求用に領収書と明細書、必要なら診断書をもらう。以上で、風邪程度なら全部で30分もかからない。
まとめ
韓国の医療は「軽症は의원へ、重症は119へ、深夜は夜間診療とコンビニ薬」と覚えておけばまず困らない。健康保険がなければ費用は3〜4倍になるが、それでも桁が変わるほどではなく、救急外来だけは軽症で行かないこと。日本語が必要なら大型病院の国際診療センターか1330。速くて安いが説明は短い――その前提で、聞きたいことを準備して行けば、韓国の病院は日本の病院より楽だと感じる人のほうが多いはずである。

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