2013年の夏、韓国の街はどこへ行っても「으르렁(Growl)」が流れていた。学校の文化祭、コンビニ、地下鉄のホーム。中高生の男子が一列になって踊り、女子中学生の間では「EXOのメンバーの名前を全員言えるか」が会話の入り口だった。日本では「SMの男性グループ」「BTSの前の世代」という認識かもしれないが、韓国においてEXO(엑소)は、BTSの前に韓国を支配した「最後の国内型帝王」だ。この記事では、12人での特殊なデビュー、中国人メンバーの離脱、ミリオンセラー連続記録、兵役、そして事務所との対立まで、韓国社会の空気とともに整理する。
1. 2012年、12人での異例のデビュー ─ EXO-KとEXO-M、そして「超能力」
EXOはSMエンターテインメントが東方神起、SUPER JUNIOR、少女時代に続いて送り出したグループで、2012年4月にデビューした。特殊だったのは構成だ。12人を韓国活動のEXO-Kと中国活動のEXO-Mに分け、同じ曲を韓国語と中国語で同時に発表した。中国人メンバーが4人。SMが中国市場を本気で狙った設計だった。デビュー曲「MAMA」は各メンバーが超能力を持つという世界観で、韓国では「中二病すぎる」と笑われもしたが、この設定が後にファンダムの考察文化を生んだ。
デビュー前にはSMが100日かけて一人ずつメンバーを公開する「ティーザー戦略」を取り、23本の予告映像を出した。当時の韓国ではこれが話題になり、「デビュー前から知っている新人」という珍しい状況が生まれた。
2. 2013年、「으르렁(Growl)」現象 ─ 12年ぶりのミリオンセラー
2013年6月、12人が一つになった初のフルアルバム「XOXO」と、リパッケージ曲「으르렁(Growl)」が出た。ワンテイク風の映像で12人が踊るMVは韓国に衝撃を与え、アルバムは2001年以来12年ぶりのミリオンセラーになった。CDが売れない時代に100万枚。韓国の音楽業界はこれを「アイドル市場の再点火」と呼んだ。
この年、韓国の学校では「으르렁」のダンスをコピーしない男子はいなかったと言っていい。EXOは「女子中高生のもの」というイメージが強かったが、実際には男子学生にも人気があり、体育祭のステージは「으르렁」の取り合いだった。日本で言えば嵐の全盛期に近い空気だった。
3. 2014年、中国人メンバーの離脱 ─ クリス、ルハン、タオ
絶頂期の2014年5月、中国人メンバーのクリス(크리스)がSMに契約解除を求める訴訟を起こした。同年10月にルハン(루한)、翌年にはタオ(타오)が続いた。3人とも中国で個人活動を続け、SMの「中国戦略」は内側から崩れた。韓国では「SMの奴隷契約」という古い論争が再燃し、同時に「中国メンバーは結局逃げる」という反中感情も広がった。この経験が、後の韓国事務所が中国人メンバーの起用に慎重になる原因の一つになった。
残った9人はむしろ結束を強めた。2015年の「CALL ME BABY」と「LOVE ME RIGHT」でEXOは9人体制を完成させ、以降、韓国の男性グループの頂点に立ち続ける。
4. 2016〜2017年、「EXOの時代」 ─ 5作連続ミリオン、ドバイの噴水、平昌
2016年の「Monster」、2017年の「Ko Ko Bop」と「Power」。EXOはフルアルバム5作連続でミリオンセラーを記録し、「クインティプル・ミリオンセラー」という言葉が韓国メディアで使われた。「Power」は2018年、ドバイの噴水ショーの音楽に韓国アーティストとして初めて採用された。
2018年2月、平昌冬季オリンピックの閉会式でEXOはCLとともに韓国代表としてステージに立った。世界に向けた韓国の顔として選ばれたのがEXOだった。BTSが世界で爆発する直前、韓国の頂点にいたのは間違いなくEXOだった。
5. 2018〜2019年、TempoとLove Shot、Obsession ─ そして入隊が始まる
2018年の「Tempo」「Love Shot」、2019年の「Obsession」。EXOは完成度の高い作品を出し続けたが、メンバーの入隊が始まっていた。2019年にシウミン(시우민)とD.O.(디오)が入隊し、以降、順番に軍へ向かった。韓国では「EXOの時代は終わった」ではなく「EXOが休んでいる間にBTSが出た」という語られ方をする。
6. 韓国的な事件 ─ チェンの結婚発表とファンダムの反応
2020年1月、メンバーのチェン(첸)が結婚と妻の妊娠を発表した。日本ならおめでとうで終わる話だが、韓国では一部のファンが「脱退要求」の街宣とトラックデモを行った。アイドルの恋愛と結婚を許さない韓国のファンダム文化の極端な例として社会ニュースになり、「ファンは会社の株主なのか」という議論が起きた。結局チェンは脱退せず、SMも彼を守った。今では韓国でもこの事件は「行き過ぎだった」と振り返られることが多い。
7. 2023年、CBXとSMの対立 ─ 「事務所と戦うアイドル」
2023年6月、チェン、ベクヒョン(백현)、シウミンの3人(CBX)がSMに対して契約の不透明さを理由に専属契約の解除を通知した。SMの創業者イ・スマンが去った直後の混乱期で、韓国では「SMが崩れる」と騒がれた。数週間後に3人はSMと合意し、グループ活動はSM、個人活動は独立した事務所で行うという形で決着した。この事件はEXOの結束の強さと、韓国の芸能事務所の契約構造の問題を同時に見せた。
8. 2024〜2026年 ─ 全員除隊、そして完全体へ
2024年までにメンバー全員が兵役を終えた。2023年の「Cream Soda」は入隊中のメンバーを除く体制での作品だったが、韓国の音楽番組で1位を取り、「12年目のグループが1位」と話題になった。ベクヒョンはソロで韓国のアルバム売上の上位を占め、D.O.は俳優として、カイ(카이)はソロとバラエティで、それぞれ個人の地位を築いた。EXOは「グループとしての活動は減ったが、メンバー個人が全員一線にいる」という珍しい状態にある。
9. 日本の読者へ ─ 韓国でEXOはどう記憶されているか
韓国でEXOは、「BTSより前に、韓国国内で最も大きかったグループ」として記憶されている。BTSが世界で勝ったグループなら、EXOは韓国で勝ったグループだ。ミリオンセラーの復活、中国メンバー離脱の教訓、ファンダムの暴走、事務所との対立。EXOの歴史はそのまま2010年代の韓国芸能界の歴史になっている。冬になると「12월의 기적(Miracles in December)」が街に流れ、韓国人は今でも「あの頃」を思い出す。
まとめ
12人で始まり、9人で頂点に立ち、全員が兵役を終えて戻ってきたEXO。ミリオンセラーを12年ぶりに復活させ、平昌の舞台に立ち、ファンダムと事務所の両方と衝突しながら生き延びた。韓国でEXOを語ることは、2010年代の韓国を語ることに近い。日本から見える「SMの男性グループ」の裏には、それだけの物語がある。

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