韓国で会社に勤めていると、月に一度はカカオトークに「○○さんのご子息の結婚式」「△△さんのお父様のご訃報」という連絡が届く。そしてその場で送金する。日本のご祝儀や香典と似ているが、金額、渡し方、範囲、そして「行かないのに送る」という感覚が大きく違う。韓国ではこれを「경조사(慶弔事)」と呼び、人間関係の中心にある。この記事では、韓国のご祝儀(축의금)と香典(부의금)の文化を、日本との違いを軸に整理する。
1. ご祝儀の相場 ─ 5万、10万、そして「食事代」という計算
韓国のご祝儀(축의금)の相場は、知人なら5万ウォン、親しい友人や同僚なら10万ウォン、親戺やごく親しい友人なら20万〜30万ウォン。日本の3万円と比べると安いが、韓国には独特の計算がある。結婚式場の食事代が一人7万〜10万ウォンするので、「食事をして帰るなら10万、食事をしないなら5万、家族を連れて行くなら人数分」という感覚だ。ネットには「ご祝儀計算機」があり、関係の近さと同伴者の数を入れると金額が出てくる。
奇数にする、新札にするといった日本のルールは韓国にもあったが、今はほとんど気にしない。理由は送金だからだ。
2. 行かないのに送る ─ 送金が変えた慶弔事
日本では結婚式に行かない人がご祝儀を送るのは特別な場合だが、韓国では普通だ。招待の連絡がカカオトークで届き、そこに口座番号が書いてある。行けない人はその場で送金し、「おめでとう、行けなくてごめん」と一言送る。式場には受付にご祝儀を集める人がいて、現金を封筒に入れて渡すのが伝統だが、今は式場に来た人も送金で済ませる。受付に「送金しました」と言えば食事券をくれる。
日本のご祝儀袋や水引きのような形式は、韓国ではほぼ消えた。白い封筒に名前を書くだけで、それさえ送金に置き換わっている。
3. 香典と葬儀 ─ 三日間の葬儀場と「食べて帰る」文化
韓国の葬儀は三日間。病院の葬儀場(장례식장)に遺族が泊まり込み、弔問客は三日間のうち都合のいい時間に行く。香典(부의금)の相場はご祝儀と同じで5万〜10万ウォン。香をあげて二度拝み、遺族に挨拶した後、必ず食事をして帰る。ユッケジャン(辛い牛肉スープ)とご飯、そして焼酎。日本の通夜のように静かではなく、弔問客同士が食べて飲んで話す。「葬儀場で飲む」ことは韓国では失礼ではなく、遺族を一人にしないという意味がある。
服装は黒だが、日本の喪服のような厳格さはない。仕事帰りのスーツで十分で、若い人は黒っぽい服であればいい。数珠はない。
4. 「ご祝儀の帳簿」 ─ もらった分は必ず返す
韓国の慶弔事で最も重要なのは帳簿だ。誰からいくらもらったかを記録し、その人の慶弔事には同じ金額を返す。これは義務に近い。日本でも同じ感覚はあるが、韓国ではより明確で、「あの人は私の結婚式に10万くれたのに5万しか送らなかった」という話は友人関係を壊す。送金の履歴が残るので、今は記憶ではなく記録で確認される。
会社では式をあげる人が招待状を全員に配り、部署でまとめて送ることも多い。「あまり知らない人の結婚式にも送る」のは、自分のときに返ってくるからだ。転職するとこの関係が切れるので、「送った分が戻らない」という愚痴は韓国人の定番だ。
5. 変わりつつある慶弔事 ─ 少子化、非婚、「ご祝儀だけ無駄」
韓国の婚姻件数は20年で半減し、結婚しない人が増えた。その結果、「自分は結婚しないのにご祝儀を送るだけ」という不満が若い世代に広がった。「ご祝儀は投資ではなく寄付」と割り切る人、招待されても送らない人、逆に式をあげない人。同時に、式場の食事代の高騰で「10万では足りない」という声もある。韓国の慶弔事は、人間関係のインフラだったものが、今は負担として語られ始めている。
6. 日本人が韓国の結婚式に招かれたら
韓国の結婚式は一時間で終わる。式場では次の組が待っている。式を見て、写真を撮って、食事をして帰る。招待状の返事は不要で、当日に行けばいい。服装は日本よりカジュアルで、男性はジャケット、女性はきれいめの服で十分。ご祝儀は5万か10万ウォンを白い封筒に入れて受付に渡すか、韓国の口座があれば送金する。日本のご祝儀袋を持って行くと、受付が驚く。
まとめ
韓国の慶弔事は、日本と同じ「お互い様」の文化を、送金とカカオトークで徹底的に効率化したものだ。行かなくても送る、もらった分は返す、帳簿は送金履歴。そして今、少子化と非婚がその仕組みを揺らしている。韓国人の友人ができたら、いつかカカオトークに口座番号付きの招待状が届く。そのときこの記事を思い出してほしい。

コメントを残す