今日、10月9日は韓国のハングルの日(한글날)である。祝日だ。世界で「文字の誕生日」が国の祝日になっているのは、おそらく韓国だけだ。日本にはひらがなの日も漢字の日もない。なぜ韓国人は自分たちの文字をこれほど特別に思うのか。この記事では、ハングルがいつ誰によって作られ、なぜ500年間使われず、なぜ今は漢字が消えたのかを、日本語との比較を交えて整理する。
1. 1443年、王が作った文字 ─ 世宗大王と「訓民正音」
ハングルは朝鮮王朝の4代目の王、世宗(세종・セジョン)が1443年に作り、1446年に「訓民正音(훈민정음)」という名で公布した。「民を教える正しい音」という意味だ。序文には「我が国の言葉は中国と違い、漢字とは通じない。愚かな民が言いたいことがあっても書けない。それを哀れに思い、新しく28の文字を作った」とある。世界の文字の中で、作った人、作った年、作った理由が文書で残っているのはハングルだけだ。その文書「訓民正音解例本」はユネスコの世界記憶遺産になっている。
ハングルの仕組みは科学的だ。子音の字は発音するときの舌や唇の形をかたどっている。「ㄱ(k)」は舌の根が喉を塞ぐ形、「ㅁ(m)」は唇の形、「ㅅ(s)」は歯の形。母音は天(・)、地(ㅡ)、人(ㅣ)の三つの要素の組み合わせ。言語学者の間では「世界で最も合理的に設計された文字」と評価されることが多い。
2. 500年間、使われなかった文字 ─ 「女と子どもの文字」
だがハングルは作られてから約450年間、公式の文字ではなかった。朝鮮の両班(貴族)は漢字を使い、ハングルは「언문(諺文・俗な文字)」「암클(女の文字)」と呼ばれて見下された。学問は漢文でするものだった。ハングルを使ったのは女性、庶民、そして小説。日本で平安時代にひらがなが「女手」と呼ばれ、源氏物語がひらがなで書かれたのと似ている。
ハングルが公式の文字になったのは1894年の甲午改革で、日本の明治維新より後だ。そして皮肉なことに、ハングルが「民族の文字」として意識されるようになったのは、日本の植民地時代だった。日本語教育が強化され、朝鮮語とハングルの使用が制限される中で、ハングルを守ることが独立運動になった。1926年に「ガギャルの日」として始まったのがハングルの日の起源で、1940年に発見された「解例本」の記述から公布日が10月9日と確定した。
3. 漢字が消えた国 ─ 日本との最大の違い
日本人が韓国で一番驚くのは、街に漢字がほとんどないことだ。新聞も、教科書も、役所の書類もハングルだけ。これは自然にそうなったのではなく、政策の結果だ。1948年の「ハングル専用法」、1970年の小学校での漢字教育廃止。新聞は1990年代まで漢字を混ぜていたが、2000年代にはほぼ消えた。今の韓国の30代以下は、自分の名前の漢字は書けても、新聞の漢字は読めない人が多い。
日本は逆の道を選んだ。戦後に漢字廃止論はあったが、当用漢字として残した。その結果、日本語と韓国語は同じ漢字語を大量に共有しているのに、見た目は全く違う。「学校(학교)」「図書館(도서관)」「約束(약속)」。韓国語を学ぶ日本人が「発音を聞けば意味がわかる」と言うのはこのためだ。韓国人は自分が使っている言葉の多くが漢字語だということを、日本人ほど意識していない。
4. 同音異義語の問題 ─ ハングル専用の代償
漢字を捨てた代償はある。「정부」は政府でも情婦でもあり、「연패」は連敗でも連覇でもある。文脈で判断するしかない。数年前、ある小学校で「사심없이(邪心なく)」を「サシムさんがいない」と理解した子どもの話がニュースになり、「漢字教育を復活すべきか」という議論が再燃した。韓国ではこの議論が数年おきに繰り返される。それでも漢字は戻らない。ハングルだけで書くことが、韓国人のアイデンティティになっているからだ。
5. ハングルの日に韓国人は何をするのか
正直に言えば、多くの韓国人にとってハングルの日は「休み」だ。ハングルの日は1991年に一度祝日から外され、「休日が多すぎる」という経済界の要求が理由だった。その後の復活運動で、2013年に再び祝日になった。当日は光化門広場の世宗大王像の前で式典があり、テレビはハングルの特集を流す。カカオトークのアイコンがハングル仕様になり、ネイバーのロゴが変わる。そして企業は「英語を使わずにハングルで広告を作る」キャンペーンをする。
同時に、この日には必ず「最近の若者の言葉は乱れている」という記事が出る。英語とハングルを混ぜた造語、略語、ネットスラング。日本の「若者言葉」記事と同じだが、韓国ではこれが「世宗大王が見たら泣く」という表現で語られる。文字を作った王が、今も国語の基準になっている。
6. 日本人が知っておくといいこと ─ ハングルは「言語」ではない
日本でよくある誤解が「ハングル語」という言い方だ。ハングルは文字の名前で、言語の名前は韓国語(または朝鮮語)だ。「ひらがな語」と言わないのと同じ。日本のNHKが「ハングル講座」という名前を使ったのは、「韓国語」と「朝鮮語」のどちらを使うかで在日の団体が対立したためだ。韓国人に「ハングル語を勉強している」と言うと、意味は通じるが少し不思議な顔をされる。
もう一つ。ハングルは一日で読めるようになる。子音と母音の組み合わせだから、仕組みを覚えれば全部読める。意味はわからなくても、看板が読めるだけで韓国旅行は変わる。世宗大王は「賢い人なら朝のうちに、愚かな人でも10日で覚えられる」と書いた。580年前の言葉は、今も正しい。
まとめ
ハングルは王が民のために作り、450年間見下され、植民地時代に民族の象徴になり、戦後に漢字を追い出して国の文字になった。韓国人がハングルの日を祝日にするのは、文字そのものより、その歴史を祝っているからだ。日本語と韓国語は最も近い言語でありながら、文字に対する態度は正反対になった。その違いを知っていると、ソウルの看板が少し違って見える。

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