約束は「ヤクソク」、無理は「ムリ」、家族は「カジョク」。韓国ドラマを見ていて、日本語にそっくりな単語が聞こえてきたことはないだろうか。
偶然ではない。どれも同じ漢字から生まれた言葉である。ハングルの下に隠れている漢字が見えるようになると、韓国語の単語は驚くほど覚えやすくなる。
1. 「ハングル」と「韓国語」は別のもの
まず言葉の整理から。ハングル(한글)は文字の名前で、韓国語(한국어)は言語の名前である。ひらがなと日本語の関係と同じだ。だから「ハングルを話す」「ハングル語」という言い方は、「ひらがなを話す」「ひらがな語」と言うのと同じで、本来は成り立たない。NHKの語学講座の名前が「ハングル講座」であることもあって、日本ではこの二つが混同されやすい。
そして、韓国語の単語は大きく三種類に分かれる。
- 固有語(고유어):もとからある韓国語。日本語の和語にあたる。사람(人)、하늘(空)など。
- 漢字語(한자어):漢字をもとにした言葉。日本語の漢語にあたる。약속(約束)、가족(家族)など。
- 外来語(외래어):커피(コーヒー)、버스(バス)など。
大事なのは、漢字語もいまはハングルで書くという点である。文字はハングル一種類でも、中身には固有語と漢字語が混ざっている。この区別がつくようになると、韓国語の見え方が変わる。
2. 語彙の半分以上は漢字語
韓国の国立国語院(국립국어원)が作った『標準国語大辞典(표준국어대사전)』の見出し語を分類した統計がある(2000年、国立国語研究院)。主見出し語およそ44万語のうち、漢字語は57.12%、固有語は25.28%、外来語は5.26%。残りは「漢字語+固有語」のような組み合わせの言葉である。
「韓国語の7割は漢字語」とよく言われるが、これは1961年に出た別の辞書の数字(67.2%)がもとになって広まった話で、少し大げさだと指摘されている。とはいえ、辞書に載っている単語の半分以上が漢字語であることは間違いない。
3. 1990年代まで、新聞には漢字が並んでいた
いまの韓国の街はハングル一色だが、昔からそうだったわけではない。
1948年に「公文書はハングルで書く」と定めた法律(한글전용에 관한 법률)ができたが、「当分の間は漢字を併用できる」という但し書きがあり、新聞や専門書では漢字まじりの文章が長く使われた。
流れを変えたのは新聞自身である。1988年に創刊したハンギョレ(한겨레)は、全国紙として初めて、創刊号からハングルだけの横書きを採用した。その後、中央日報(중앙일보)が1995年、東亜日報(동아일보)が1998年、最後まで縦書きを守った朝鮮日報(조선일보)も1999年に横書きへ移り、本文の漢字もほとんど姿を消した。漢字まじりの縦書きの新聞は、そう遠い昔の話ではない。
学校では、1970年に小学校から漢字教育がなくなった。一方、1972年には中学・高校で習う「漢文教育用基礎漢字」1,800字(中学900字、高校900字)が定められ、いまも続いている。2005年には国語基本法(국어기본법)ができ、公文書はハングルで書き、必要なときだけかっこの中に漢字を添える形になった。
いまも漢字が残っている場所はある。
- 新聞の見出し:美(アメリカ)、日(日本)、中(中国)、獨(ドイツ)、野(野党)など、一文字の略語として使われる。アメリカが「米」ではなく「美」なのは、韓国語では美国(미국)と書くためである。
- 名前:韓国人の名前の多くには漢字がある。名前に使える漢字は大法院(대법원、日本の最高裁にあたる)が決めていて、2024年に9,389字に増えた。
4. 韓国の漢字は、読み方がほぼ一つ
ここからが本題である。日本語の漢字は読み方が多い。たとえば「生」は、常用漢字表にあるだけでもセイ、ショウ、いきる、うまれる、はえる、なま、きなど12通りもある。
韓国語には訓読みがない。漢字は音だけで読み、その音も一つの漢字に一つが原則である。「生」は생(セン)だけ。学生は학생(ハクセン)、生活は생활(センファル)、人生は인생(インセン)と、どこに出てきても同じ音である。一文字覚えれば、その字を使う単語がまとめて読めるようになる。
もちろん例外はある。
- 金:금(クム)/姓のときは김(キム)
- 車:自動車は자동차(チャドンチャ)、自転車は자전거(チャジョンゴ)
- 楽:娯楽は오락(オラク)、音楽は음악(ウマク)。ほかに요(ヨ)という音もある
- 度:温度は온도(オンド)、忖度は촌탁(チョンタク)
もう一つ、頭音法則(두음법칙)という決まりがある。「녀」や「료」「리」のような音は、単語の頭に来ると「여」「요」「이」に変わる。
- 女:男女は남녀(ナムニョ)、女子は여자(ヨジャ)
- 料:無料は무료(ムリョ)、料理は요리(ヨリ)
- 李:姓の「イ」さんは이。もとの音は리(リ)である
5. 音読みから韓国語の音を当てるコツ
日本の音読みも韓国の漢字音も、もとをたどれば昔の中国語の発音である。だから両者にはきれいな対応がある。
- 「ン」で終わる → パッチム(받침)のㄴ(n)かㅁ(m):安心(アンシン)→ 안심(アンシム)、簡単(カンタン)→ 간단(カンダン)
- 「ク・キ」で終わる → パッチムㄱ(k):約束(ヤクソク)→ 약속(ヤクソク)、駅(エキ)→ 역(ヨク)
- 「ツ・チ」で終わる → パッチムㄹ(l):出発(シュッパツ)→ 출발(チュルバル)、一(イチ)→ 일(イル)
- 「ウ・イ」で伸ばす → パッチムㅇ(ng)が多い:東洋(トウヨウ)→ 동양(トンヤン)、経営(ケイエイ)→ 경영(キョンヨン)
- カ行で始まる → ㅎ(h)になることがある:韓国(カンコク)→ 한국(ハングク)、会社(カイシャ)→ 회사(フェサ)
「ウ」で伸ばしてもパッチムがつかない字(高=고、道=도)や、ㅂ(p)になる字(法=법)もあるので万能ではないが、見当をつけるには十分役に立つ。
実際、ほとんどそのまま通じる単語は多い。
- 準備(じゅんび)→ 준비(チュンビ)
- 無理(むり)→ 무리(ムリ)
- 家族(かぞく)→ 가족(カジョク)
- 計算(けいさん)→ 계산(ケサン)
- 温度(おんど)→ 온도(オンド)
- 気分(きぶん)→ 기분(キブン)
- 図書館(としょかん)→ 도서관(トソグァン)
- 高速道路(こうそくどうろ)→ 고속도로(コソクトロ)
ここまで似ているのには、もう一つ理由がある。明治時代の日本では、西洋の概念を訳すために新しい漢字語がたくさん作られた。哲学(철학)、科学(과학)、社会(사회)、権利(권리)、義務(의무)、憲法(헌법)、大統領(대통령)などである。こうした言葉は19世紀末以降、日本に留学した人たちや植民地時代を通じて韓国語に入り、いまもそのまま使われている。新聞や教科書に出てくる硬い言葉ほど日本語と共通しているのは、そのためだ。
6. 同じ漢字でも意味が違う言葉
ただし、漢字が同じなら意味も同じ、とは限らない。
- 工夫 → 공부(コンブ):韓国語では「勉強」のこと。
- 愛人 → 애인(エイン):「恋人」のこと。日本語のような後ろ暗い意味はない。
- 八方美人 → 팔방미인(パルバンミイン):何でもできる多才な人。ほめ言葉である。
- 手紙:韓国語ではこの漢字を使わず、便紙と書いて편지(ピョンジ)と言う。
「彼女は八方美人だ」を直訳すると、韓国では立派なほめ言葉になってしまう。似ているからこそ、ずれているところは別に覚えておきたい。
日本の読者へ
漢字を知っている日本人は、韓国語を学ぶうえで最初から大きな貯金を持っている。新しい単語に出会ったら、まず「これは漢字語だろうか、もとの漢字は何だろう」と考えてみてほしい。『標準国語大辞典』では、漢字語の見出しにもとの漢字が添えられている。
漢字一文字の音を覚えるたびに、読める単語がまとめて増えていく。逆に、사람(人)や하늘(空)のような固有語は漢字から推測できないので、一つずつ覚えるしかない。この二つを分けて考えることが、遠回りに見えていちばんの近道である。
最後に、漢字語だけで言えるひとことを三つ。
「약속 있어요(約束があります)」
「준비됐어요?(準備できましたか)」
「무리예요(無理です)」
※アイキャッチ画像:ハングルと漢字が混ざった昔の新聞広告(Advertisement YuhanYanghaeng.JPG、Wikimedia Commons、パブリックドメイン)

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