前編では、『SHOW ME THE MONEY(쇼미더머니)』が始まる前の韓国ヒップホップの20年を振り返った。後編は、その番組そのものの話である。
K-POPアイドルの話を続けてきたが、2010年代の韓国の大衆音楽を語るうえで、アイドルと同じくらい外せないのが、Mnetのラッパー・サバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』だ。毎年夏から秋になると音源チャートの上位はこの番組の曲で埋まり、ラッパーの曲がアイドルより売れる時期があった。iKONのBOBBY(바비)、WINNERのMINO(송민호)、そしてイ・ヨンジ(이영지)も、この番組を経ている。
1. 2012年、始まりは小さかった
シーズン1は2012年6月に始まった。優勝はLoco(로꼬)である。
シーズン2(2013年)の優勝はSoul Dive(소울다이브)。このシーズンではSwings(스윙스)やMad Clown(매드클라운)が話題になり、Swingsは番組の編集に対して公に不満をぶちまけた。Mnet特有の「悪魔の編集(악마의 편집)」をめぐる騒ぎは、この頃から番組の一部だったわけである。
シーズン2が終わった直後の2013年8月、韓国のヒップホップシーンでは「コントロール・ディス戦(컨트롤 디스전)」が起きる。Swings、E SENS(이센스)、Dynamic Duo(다이나믹 듀오)のゲコ(개코)、Simon Dominic(사이먼 도미닉)が互いを実名でディスした出来事だ。番組とは別の話だが、「ヒップホップ」という言葉がリアルタイム検索ワードを席巻した、最初の瞬間だった。
2. シーズン3(2014)― アイドル練習生が優勝する
プロデューサー陣は、YGのTABLO(타블로)とMasta Wu(마스타 우)、Illionaire Records(일리네어 레코즈)のDok2(도끼)とThe Quiett(더 콰이엇)、ブランニューミュージック(브랜뉴뮤직)のSwingsとSan E(산이)、そしてヤン・ドングン(양동근)。
優勝したのはBOBBYである。当時はiKONとしてデビューする前の、YGの練習生だった。「行け(가)」「L4L」「連結の輪#ヒップホップ(연결고리#힙합)」が、次々に音源チャートの1位になった。
「アイドルのラッパーは偽物」というヒップホップシーンの見方を、実力で覆した出来事だった。同時に、『SHOW ME THE MONEY』が「音源の売れる番組」になった出発点でもある。
Illionaire Recordsの「連結の輪(연결고리)」は、この時期の韓国ヒップホップを象徴する曲になった。
3. シーズン4(2015)― 最大の話題、最大の騒動
プロデューサー陣は、YGのJINUSEAN(지누션)とTABLO、San EとVerbal Jint(버벌진트)、AOMGのJay Park(박재범)とLoco、ZICO(지코)とPaloalto(팔로알토)。ZICOは「アイドルラッパーへの偏見を壊す機会」だと語って、プロデューサーとして参加した。
優勝はBasick(베이식)、準優勝はWINNERのMINOである。MINOの「怖じ気(겁)」(feat. SOL〈태양〉)、ZICOとの「Okey Dokey(오키도키)」、チーム曲の「亀甲船(거북선)」がヒットした。
しかし、騒動が最も大きかったシーズンでもある。MINOは女性蔑視と受け取れる歌詞で批判を浴びて謝罪し、Black Nut(블랙넛)の扇情的なパフォーマンスでは収録が中断された。「ヒップホップだから許される」は通用しない。それを韓国社会が確かめたシーズンだった。
4. シーズン5(2016)― BewhYという頂点
優勝はBewhY(비와이)。Simon DominicとGRAY(그레이)のチームだった。
「Forever」と、Jay Parkをフィーチャーした「Day Day」。「Day Day」は公開後、約3週間にわたって音源チャートの1位を守った。
視聴率も3%を超えた。ケーブルテレビとしては高い数字で、確認できる範囲ではシリーズ最高である。
5. シーズン6〜777(2017〜2018)― スターは優勝者ではなかった
シーズン6(2017年)の優勝はヘンジュ(행주)だったが、いちばん話題になったのは3位のウ・ウォンジェ(우원재)である。決勝で披露できなかった曲「時差(시차/We Are)」が番組終了後に発売され、音源サイトの1位を総なめにした。
シーズン777(2018年)の優勝はnafla(나플라)。しかし主役は、ピンクの覆面をかぶったマミソン(마미손)だった。第2回で早々に脱落したあと、YouTubeに上げた「少年ジャンプ(소년점프)」が1,000万回再生を超え、「脱落者のほうが優勝者より有名」という珍現象が生まれた。
なお、naflaはその後、兵役をめぐる不正で有罪が確定している。
6. シーズン9〜10(2020〜2021)― チャートを埋め尽くす
シーズン9の優勝はlIlBOI(릴보이)。チーム曲「VVS」(Miranni〈미란이〉、Munchman〈먼치맨〉、Khundi Panda〈쿤디판다〉、Mushvenom〈머쉬베놈〉)は、Melon(멜론)のデイリーチャートで16日連続1位を記録した。当時のBTSの「Dynamite」「Life Goes On」を抑えての1位である。
lIlBOIの「明日が来たら(내일이 오면)」も、このシーズンの曲だ。
シーズン10の優勝はチョ・グァンイル(조광일)。このシーズンは「休め(쉬어)」、sokodomo(소코도모)の「回転木馬(회전목마)」、BE’O(비오)の「リムジン(리무진)」「Counting Stars」がチャートを席巻した。
そして、このシーズンから生まれた一行がある。AKMU(악뮤)のイ・チャンヒョク(이찬혁)が、フィーチャリングで参加した「不協和音(불협화음)」のステージで歌った「어느 새부터 힙합은 안 멋져(いつからかヒップホップはカッコよくない)」である。『SHOW ME THE MONEY』のステージで『SHOW ME THE MONEY』を批判したこの歌詞は、その後、韓国ヒップホップについて回るミームになった。
7. シーズン11(2022)― イ・ヨンジ、初の女性優勝者
優勝はイ・ヨンジ。Jay ParkとSlom(슬롬)のチームである。シリーズ初の女性優勝者で、『高等ラッパー3(고등래퍼3)』の優勝に続く二冠になった。番組では「NOT SORRY」などを披露している。下はセミファイナルのステージである。
しかし視聴率は1%台に落ち、2023年のMnetの編成から『SHOW ME THE MONEY』は消えた。Mnetは「打ち切りではない」とだけ答えている。
8. 派生番組
『SHOW ME THE MONEY』からは、二つの派生番組が生まれた。
一つは女性ラッパーのサバイバル『UNPRETTY RAPSTAR(언프리티 랩스타)』(2015〜2016年)。Jessi(제시)、CHEETAH(치타)、Truedy(트루디)、KittiB(키디비)、Giant Pink(자이언트핑크)らが出演した。
もう一つは高校生ラッパーのサバイバル『高等ラッパー』(2017〜2021年)である。キム・ハオン(김하온)、イ・ビョンジェ(이병재/VINXEN)、イ・ヨンジがここから出てきた。キム・ハオンとイ・ビョンジェの「バーコード(바코드)」は、ぜひ見てほしいステージだ。
9. ブームが残したもの ― レーベルの興亡と不祥事
『SHOW ME THE MONEY』とともに、ヒップホップレーベルも全盛期を迎えた。Illionaire Records(2011年設立)、Jay Parkが2013年に設立したAOMG、ハイライト・レコーズ(하이라이트 레코즈)、ジャストミュージック(저스트뮤직)、VMCである。
そしてブームが冷めるにつれ、順に看板を下ろしていった。Illionaire Recordsは2020年に解散、ハイライト・レコーズは2022年に解散、VMCは2023年にレーベル活動を終えた。
出演者の薬物、兵役、暴行をめぐる事件も続いた。シーズン9ではOwen(오왼)が大麻で摘発されて降板し、naflaの兵役不正もあった。「ヒップホップはカッコよくない」という言葉に世間がうなずいたのには、こうした背景がある。
10. 2026年、シーズン12で帰ってくる
3年ぶりとなるシーズン12は、2026年1月15日にMnetとTVINGで放送が始まった。応募者は約3万6,000人で、過去最多である。
プロデューサー陣は、ZICOとCrush(크러쉬)、GRAYとLoco、Jay ParkとLil Moshpit(릴 모쉬핏)、J-Tong(제이통)とHukky Shibaseki(허키 시바세키)。優勝はZICO・Crushチームのキム・ハオンで、『高等ラッパー2』の優勝に続く二冠になった。
初回の視聴率は0.6%にとどまったが、オンラインの話題性ランキングでは1位となり、累計再生回数は10億回に達した。テレビではなく、切り抜き動画で見る時代の『SHOW ME THE MONEY』である。
日本ではU-NEXTが日韓同時配信を行った。日本のラッパー、Red Eyeと3Li¥enも参加している。ABEMAの『RAPSTAR(ラップスタア)』と見比べてみるのも面白い。
日本の読者へ
K-POPアイドルのラップパートは、なぜあれほど水準が上がったのか。ZICO、MINO、BOBBYのような「アイドルでありラッパーでもある」人たちは、どうやって認められるようになったのか。その背景に、『SHOW ME THE MONEY』の10年がある。
最初に聴くなら、次の5曲をすすめたい。
- Illionaire Records「連結の輪(연결고리)」
- BewhY「Day Day」
- ウ・ウォンジェ「時差(시차)」
- 「VVS」
- sokodomo「回転木馬(회전목마)」
※アイキャッチ画像:170722 Bewhy 비와이 02.jpg by photomami(Wikimedia Commons、CC BY 4.0)

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