韓国に住む日本人が「日本に帰ったら一番恋しくなるもの」としてよく挙げるのが、配送である。
寝る前にスマートフォンで卵と牛乳を注文すると、起きたときには玄関の前に置かれている。受け取りのために家で待つ必要もない。
1. 数字で見る「宅配の国」
2025年の韓国の宅配便取扱個数は約64億1,773万個。初めて年間60億個を超えた。国民一人あたり年間125.5回。三日に一度は宅配を受け取っている計算になる。
2. クーパン(쿠팡)の「ロケット配送(로켓배송)」
2014年に始まった。自社で物流センターを建て、配達員を直接雇用する方式で、「今日注文、明日到着」を標準にした(現在は委託契約の配達員も多い)。
有料会員制度「ワウ(와우)」は月7,890ウォン。2019年の2,900ウォンから、4,990ウォン、そして2024年に7,890ウォンへと上がってきた。
生鮮食品の「ロケットフレッシュ(로켓프레시)」は、ワウ会員が深夜0時までに1万5,000ウォン以上注文すると、翌朝7時までに届く。
ロケット配送が使える地域を、駅近を意味する「駅勢圏(역세권/ヨクセクォン)」にかけて「クセ圏(쿠세권/クセクォン)」と呼ぶ。2024年の時点で、全国の市・郡・区(日本の市区町村にあたる)の約7割がこれにあたる。
2026年8月の報道によると、外国人登録証や韓国の携帯番号を持たない短期滞在の外国人観光客でも、会員登録と注文ができるようになった。海外発行のクレジットカードで決済でき、ホテルやゲストハウスを配送先にすることもできる(施設の方針によっては不可)。
3. 早朝配送(새벽배송)は誰が始めたのか
元祖は、2015年5月に始まったマーケットカーリー(마켓컬리/現カーリー)の「セッピョル配送(샛별배송/明けの明星配送の意)」である。その後、クーパンやSSGドットコムなどが続いた。
競争は今も続いている。カーリーは2026年2月、首都圏で「午後3時までに注文すれば、その日の深夜0時までに届く」サービスを始めた。宅配大手のCJ大韓通運(CJ대한통운)は2025年1月から週7日配送を開始し、日曜日にも宅配が届くようになった。
4. 玄関の前に置いていく
韓国の宅配の基本は「非対面」、日本でいう「置き配」である。配達員は呼び鈴を鳴らさず、玄関の前に荷物を置いていく。2020年に宅配の標準約款が改正され、あらかじめ合意した場所に置けば配送完了とみなされるようになった。配達員は置いた荷物の写真を撮り、受取人に送る。
日本のように不在票を入れて持ち帰るのではなく、置いていくのが当たり前なのである。
「盗まれないのか」とよく聞かれる。たいていは大丈夫だが、盗難がないわけではない。玄関前に置いたあとでなくなった場合、受取人側の責任とされることがあり、韓国消費者院(한국소비자원)に寄せられた宅配関連の被害救済の申請は、2024年に1,209件に増えている。高額な品は直接受け取るか、宅配ボックスを使うようにと専門家は勧めている。
5. コンビニ宅配 ― 送るのも安い
GS25の「半額宅配(반값택배)」やCUの「アルトゥル宅配(알뜰택배/お得な宅配の意)」は、コンビニから送り、受取人が自分の近所のコンビニまで取りに行く方式である。同じブランドのコンビニ同士でしか使えない。
料金はGS25の半額宅配で、500g以下1,900ウォン、1kg以下2,300ウォン、5kg以下2,700ウォン(2025年4月改定)。フリマアプリの取引でよく使われている。
6. マンションと宅配の戦争
2018年、京畿道(경기도)の多山新都市(다산신도시)で、ある大規模マンションが、安全を理由に宅配車の敷地内(地上部分)への乗り入れを禁止した。地下駐車場は高さ2.3メートルで宅配車が入れず、正門の前に荷物が山のように積まれた。2021年にはソウルの高徳洞(고덕동)でも同じことが起きている。
早朝配送のためにエントランス(オートロック)の暗証番号を配達員に教える慣行も、防犯上の問題として指摘されている。
7. 便利さの裏側 ― 誰かが夜に働いている
2020年、宅配の配達員の過労死と見られる死亡が相次ぎ、社会問題になった。
2021年には「社会的合意」が結ばれ、配達員を仕分け作業から外すこと、週60時間を超えて働かせないことが決まった。
2020年からは毎年8月14日が「宅配のない日(택배 없는 날)」になった。配達員が休む日で、2026年も実施された。ただし、クーパンやカーリーのように自社の配送網を持つ会社は参加していない。
2025年の秋には、宅配労組が「深夜0時から5時までの配送をやめ、2交代制にしよう」と提案し、大きな論争になった。「配達員の健康」か、「消費者の利便と雇用」か。結局、早朝配送そのものは禁止されず、議論は夜間の労働時間を減らす方向へ移った。2026年春には「週48時間」をめぐる協議が決裂し、夏には夜間労働を制限する法案が国会に提出された。今も続いている問題である。
8. 2025年、クーパンの個人情報流出
2025年11月29日、クーパンは約3,370万アカウントの個人情報(名前、電話番号、住所、一部の注文履歴)が流出したと発表した。元社員によるものとされる。
韓国の人口は約5,100万人。事実上、成人のほとんどの住所が漏れたことになる。
クーパンは一人あたり5万ウォン相当のクーポン(利用券)で補償した。2026年6月、個人情報保護委員会は被害規模を約3,750万人と認定し、過去最大となる6,246億ウォン余りの課徴金を課した。クーパンは行政訴訟を起こす方針を示している。
では利用者は離れたのか。2026年1月に約110万人減ったが、3月には再び増加に転じ、今もショッピングアプリの1位である。「腹は立つが、やめられない」。クーパンが韓国の暮らしにどれほど深く入り込んでいるかを示す出来事だった。
9. 箱、箱、箱
便利な分、包装ゴミも多い。マンションのゴミ置き場には宅配の段ボールが山になる。
クーパンの「フレッシュバッグ(프레시백)」は、生鮮食品用の再利用できる保冷バッグである。使い終わったバッグを玄関前に出しておくと、次の配送のときに回収していく。
政府は宅配の過剰包装を規制するルール(箱の中のすき間の割合を50%以下に)を導入したが、例外が多いと批判されている。
日本の読者へ
日本の宅配は「時間帯指定、手から手へ」の丁寧さ。韓国の宅配は「早く、玄関前へ」の速さ。どちらが良いというより、社会が選んだ優先順位が違うのである。
そしてその速さが誰かの夜の労働の上に成り立っていることを、韓国社会もいま考え続けている。
短期滞在でもクーパンで注文できるようになった。宿が許してくれるなら、一度体験してみるのも面白い。
※アイキャッチ画像:Coupang 1.jpg by Bonnielou2013(Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0)

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