韓国の大学入試「修能(수능)」とは ― 飛行機も止まり、出勤も株式市場も1時間遅れる日【2026年は11月19日】

修能の試験会場になった高校の教室(2018年)

韓国では毎年11月のある木曜日、国全体が一人の受験生のために息をひそめる。英語のリスニングが始まると、全国の空港で飛行機の離着陸が止まる。会社員の出勤も、株式市場の取引開始も1時間遅れる。遅刻しそうな受験生は、パトカーが試験場まで送り届ける。

その日が修能(수능)である。2026年は11月19日(木)に行われる。

1. 修能とはどんな試験か

正式名称は大学修学能力試験(대학수학능력시험)。日本の大学入学共通テストにあたる全国共通の試験で、韓国教育課程評価院(한국교육과정평가원)が実施する。

2026年11月に行われるのは「2027学年度修能」である。韓国では入学する年度の名前で呼ぶので、日本の感覚より1年先の数字になる。評価院が9月8日に発表した志願者数は55万1,864人。成績は12月11日に通知される。

試験はたった1日で、朝から夕方まで続く。

  • 入室:8時10分まで
  • 1時間目 国語:8時40分〜10時00分
  • 2時間目 数学:10時30分〜12時10分
  • 3時間目 英語:13時10分〜14時20分
  • 4時間目 韓国史・探究(社会・科学など):14時50分〜16時37分
  • 5時間目 第二外国語・漢文:17時05分〜17時45分

日本の共通テストが1月に2日間かけて行われるのに対し(2027年は1月16日・17日)、修能は11月に1日で終える。BBCは、約200問に答える8時間のマラソンだと紹介した。

2. 飛行機が止まる35分

修能の名物といえば、英語リスニング中の「空の通行止め」である。

昨年(2025年11月13日)の例を見てみよう。リスニングは13時10分〜13時35分。国土交通部(국토교통부)は、その前後5分を含む13時05分〜13時40分の35分間、全国で航空機の離着陸を全面的に止めた。緊急を要する航空機を除いて離陸は禁止、飛行中の機体は高度3km以上の上空で待機する。これによって国際線65便、国内線75便、計140便の運航時間が調整された。ドローンの飛行も禁止され、軍の砲撃訓練や戦車の移動も一時中断される。

今年の具体的な時間や便数は、例年どおりなら試験の直前に発表される。

3. 出勤は10時、株式市場も銀行も1時間遅れ

朝の道路を受験生に譲るため、社会全体が動きを遅らせる。以下も昨年の例である。

  • 出勤時間:教育部(교육부)が官公庁や企業に、出勤を10時以降にするよう協力を求めた。ソウル市は市・区役所などの出勤を1時間遅らせ、10時とした。
  • 株式市場:韓国取引所(한국거래소)のKOSPI・KOSDAQは、通常の9時〜15時30分から10時〜16時30分に変更された。
  • 銀行:銀行連合会(은행연합회)の発表によると、営業時間は10時〜17時になった。
  • 地下鉄・バス:ソウル市は地下鉄を29本増やし、6時〜10時に集中して走らせた。市内バスも、試験場に向かう時間帯は運行間隔を最短にした。
  • 無料送迎:ソウルの各区は、官民の車両646台を地下鉄駅やバス停で待機させ、受験生を無料で運んだ。公務員やボランティア2,200人あまりも、警察と一緒に交差点などに立った。

警察も出動する。仁川(인천/インチョン)では、寝坊した受験生をパトカーで6.6km先の試験場まで送り届け、試験場を間違えた受験生を25分で正しい学校まで運んだ。入室締め切り直前のタクシーを、白バイが7.6km先導した例もある。京畿南部(경기남부)警察庁には、入室時間帯の7時〜8時30分に153件の通報があり、そのうち88件が受験生の輸送要請だった。

試験場の周りも静かになる。試験場の200m手前からは一般車両が入れず、周辺ではバスや列車が徐行し、クラクションも控える。近くの工事も一時止まる。

4. 応援と縁起かつぎ

試験の朝、校門の前では後輩たちが先輩を待つ。昨年は、ソウル・江南(강남/カンナム)の試験場前で後輩たちが正門に向かってクンジョル(큰절/床に手をつく深いお辞儀)をし、「대박 나십시오(大当たりしてください=うまくいきますように)」と叫んだと報じられた。

ただし、応援の形は変わってきた。コロナ禍の2020年には、試験場前の応援そのものが禁止された。昨年の報道を見ても、大きな応援団の代わりに先生たちが見送ったり、お菓子を配ったりする学校があった。

縁起かつぎの代表は、飴の一種であるヨッ(엿)と、もち米の大福チャプサルトック(찹쌀떡)である。韓国語で「試験に붙다(くっつく)」は「合格する」という意味。べたべたくっつく食べ物を贈って、「試験にぴったりくっつけ」と願うわけだ。

反対に、当日の弁当で避けるのがわかめスープ(미역국)。ぬるっとしたわかめで試験に「미끄러지다(滑る=落ちる)」からである。日本の「滑る」とまったく同じ発想なのが面白い。AFP通信も、修能の日の代表的なタブーとして紹介した。

もう一つ、「修能寒波(수능 한파)」という言葉もある。修能の日はなぜか冷え込む、という言い伝えだ。ただ、2022年までの29回の修能のうち、実際に寒波が来たのは8回だけだという分析がある。もともと気温が急に下がる時期に試験日があるため、寒さが記憶に残りやすいのだろう。

そして「修能禁止曲(수능 금지곡)」。試験中に頭の中で鳴り止まなくなる、中毒性の強い曲のことで、代表がSHINeeの「Ring Ding Dong」である(詳しくは本ブログのSHINeeの記事を)。2024年には、ROSÉとブルーノ・マーズの「APT.」が新たな禁止曲になったとBBCが報じた。

5. 修能が終わったら

試験が終わると、受験票(수험표)が割引券に変わる。昨年は、ロッテワールド・アドベンチャー(롯데월드 어드벤처)が受験生向けにフリーパスを2万6,000ウォンで販売し、ティーウェイ航空(티웨이항공)は国内線を25%割り引いた。映画館やレストランなどにも同じようなイベントが並ぶ。

ただし、修能だけで合否が決まるわけではない。韓国の大学入試は、大きく随時(수시)と定時(정시)に分かれる。随時は高校の成績や活動の記録(학생부/学生簿)が中心、定時は修能の点数が中心である。2027学年度の募集人員34万5,717人のうち、随時が80.3%を占める。ただソウルの主要16大学に限ると、定時の割合は43.4%と高い。

6. 修能の影

修能をめぐる問題も多い。

  • N修生(N수생/浪人生)の増加:今年の志願者のうち、高校卒業生と、高卒認定にあたる検定試験(검정고시)の合格者を合わせると19万6,473人(35.6%)。2004学年度以来、23年ぶりの多さである。
  • 私教育費(사교육비/塾などの費用):2025年の小中高の私教育費は総額27兆5,000億ウォンで、5年ぶりに減った。それでも、私教育を受けている生徒1人あたりの月平均は60万4,000ウォンで、過去最高だった。
  • キラー問題(킬러문항):2023年6月、政府は「公教育の範囲を超えた超高難度問題」、いわゆるキラー問題を出題しない方針を打ち出した。
  • 難しすぎた英語:昨年の英語で最上位の1等級を取ったのは3.11%。絶対評価が始まった2018学年度以来最低で、評価院の院長が責任を取って辞任した。

7. 旅行者が気をつけること

2026年11月19日(木)に韓国にいるなら、次の点を覚えておきたい。

  • 朝の通勤ラッシュは、例年どおりなら10時前後にずれる。銀行や官公庁の窓口も、開く時間が遅れる可能性がある。
  • 試験場になっている学校の周りは朝、車両が規制される。近くではタクシーを降りる場所に注意し、静かに歩こう。
  • 昼すぎ、英語リスニングの時間帯にかかる飛行機は、出発や到着の時間が変わることがある。航空会社の案内を必ず確認したい。

日本の読者へ

日本の入試も大変だが、国を挙げて受験生を支える韓国の修能は、やはり別格である。飛行機を止めてまで静けさを守るのは、それだけ一回の試験が人生を左右すると考えられているからだ。その重さが、浪人生や塾の問題にもつながっている。

11月に韓国で受験生を見かけたら、心の中で応援してあげてほしい。使える韓国語を二つ。

「수능 대박 나세요(修能、うまくいきますように)」
「수고했어요(お疲れさまでした)」

※アイキャッチ画像:The exam location (Puhung High School), for The South Korea College Scholastic Ability Test, 2018.jpg by 고려(Wikimedia Commons、CC BY 4.0)

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