冬のソウルに降り立って、空港を一歩出たとたんに耳が痛くなる。東京の感覚で薄手のコートを着てきた人ほど、あれ、と思うはずだ。
ところが、韓国の家に入ると今度は暑い。床がぽかぽかで、半袖で過ごしている人もいる。外は凍えるほど寒く、中は暖かい。これが韓国の冬である。
1. 数字で見る、ソウルと東京の冬
まずは平年値(1991〜2020年の30年平均)で比べてみよう。
- ソウル(韓国気象庁〈기상청〉の値):1月の平均気温は約マイナス2.0℃、平均最高気温2.1℃、平均最低気温マイナス5.5℃。
- 東京(気象庁の値):1月の平均気温5.4℃、平均最高気温9.8℃、平均最低気温1.2℃。
1月の平均気温で7℃以上の差がある。ソウルの平均「最高」気温は、東京の平均「最低」気温とほとんど変わらない。
冬の天気を表す言葉に「三寒四温(삼한사온)」がある。シベリア高気圧の勢いが強まったり弱まったりして、寒い日と緩む日が繰り返される現象で、日本では春先の言葉として使われることが多いが、韓国ではもともと冬の言葉である。ただし周期はいつも規則正しいわけではなく、寒波が10日以上続く冬もある。
特に冷え込むと、韓国気象庁が「寒波特報(한파특보)」を出す。朝の最低気温がマイナス12℃以下の日が2日以上続くと予想されると「寒波注意報(한파주의보)」、マイナス15℃以下なら「寒波警報(한파경보)」である。天気予報では気温と並んで「体感温度(체감온도)」もよく伝えられる。
2. オンドル(온돌)― 床から温める家
韓国の家が暖かい理由は、床暖房のオンドルにある。
伝統的なオンドルは、焚き口(아궁이)で火をたき、その熱と煙を床下の通り道(고래)に通して、上に敷いた平たい石(구들장)を温める仕組みだ。煙は最後に煙突(굴뚝)から出ていく。この床下の構造全体を「クドゥル(구들)」という。
韓国学中央研究院(한국학중앙연구원)の『韓国民族文化大百科事典(한국민족문화대백과사전)』によれば、原型は初期鉄器時代にさかのぼり、床全体を温める形が完成したのは高麗後期とされる。近代以降は熱源が練炭からガス・石油・電気へと変わり、いまの住宅では床下に温水パイプを通して温める。焚き口は姿を消したが、床から温めるという発想はそのまま残った。
2018年4月30日、「オンドル文化(온돌문화)」は韓国の国家無形文化財に指定された。ときどき「ユネスコ無形文化遺産」と紹介されることがあるが、それは誤りで、ユネスコに登録されているのは後で述べるキムジャン(김장)のほうである。
床が温かいので、韓国では床に布団(이불)を敷いて寝る家庭も珍しくない。床に座って食事をし、ごろりと横になる。日本のこたつに近い感覚を、部屋全体で味わえると思えばよい。
3. ボイラーと暖房費
この床暖房を動かすのが、各家庭のボイラー(보일러)である。リモコンには「外出(외출)」というボタンがあることが多い。メーカーによって仕組みは違うが、留守中も最低限の暖かさを保ったり、配管の凍結を防いだりするためのものだ。完全に切ってしまうと、帰宅後に床と空気を温め直すのにかえって燃料がかかる、という説明がよく報じられる。一方で、韓国エネルギー公団(한국에너지공단)は暖房の設定を20℃以下にするよう勧めている。
暖房費は、ここ数年の大きな話題である。2023年1月、韓国では「暖房費爆弾(난방비 폭탄)」という言葉が広まった。韓国都市ガス協会(한국도시가스협회)によると、2023年1月のソウルの都市ガス小売料金は1年前より38.4%上がっていた。ウクライナ情勢によるLNG価格の高騰に寒波が重なり、前月の倍近い請求書が届いた家庭の例も報じられた。
4. ロングダウンと、ドゥンゴルブレーカー
韓国の冬の街を歩くと、膝下まである長いダウンコートが目につく。韓国語で「ロンペディン(롱패딩)」、つまりロングパディングである。
ブームに火をつけたのは、2018年平昌冬季五輪の公式ライセンス商品「平昌ロングダウン(평창 롱패딩)」だった。2017年10月26日に14万9,000ウォンで発売され、同じ品質の市販品より大幅に安いと口コミで広がった。11月にはオンライン在庫が売り切れ、再入荷の日にはロッテ百貨店の前に徹夜の行列ができた。中古サイトで定価以上で売られる騒ぎにもなった。
その後、黒いロングダウンは中高生の間で「制服のような服」と言われるほど広まり、親の負担を心配する記事も出た。この構図には前例がある。2011年ごろ、アウトドアブランド「ノースフェイス」のダウンが中高生の間で流行し、値段ごとの「階級表」までネットに出回った。高価なダウンは、親の背骨(등골)が折れるほどだという意味で「ドゥンゴルブレーカー(등골 브레이커)」と呼ばれた。
5. カイロ、電気マット、そして冬のおやつ
外出時の必需品は、カイロ(핫팩/ホットパック)、マフラー(목도리)、耳あて(귀마개)、そして下着の上に着る保温インナー(내복)。家では電気マット(전기장판)や電気毛布(전기요)を布団の下に敷く人も多い。
冬の楽しみは、屋台のおやつである。たい焼きにそっくりのプンオッパン(붕어빵)、黒砂糖を包んで焼くホットク(호떡)、焼き芋(군고구마)、そして串に刺したおでん(어묵)。
プンオッパンの屋台は年々減っていて、近くに屋台がある場所を「駅近(역세권)」をもじって「プンセクォン(붕세권)」と呼ぶ新語まで生まれた。値段も上がった。以前は3個2,000ウォンが定番だったが、2025年の冬には1個1,000ウォンの屋台が多いと報じられている。韓国農水産食品流通公社(한국농수산식품유통공사)の価格情報によれば、2025年11月の国産小豆の小売価格は500gあたり1万3,868ウォンで、1年で30%以上上がった。
6. キムジャン ― 冬の前の一大行事
冬を迎える前の大仕事が、冬の間に食べるキムチを一度にまとめて漬けるキムジャンである。ソウルの適期は11月下旬から12月上旬ごろだが、温暖化で少しずつ遅くなっている。
2013年12月、「キムジャン、韓国のキムチ作りと分かち合い」はユネスコ無形文化遺産に登録された。ユネスコは、家族や近所が力を合わせて大量に漬け、分け合うという共同体の営みを評価している。同じ年には日本の「和食」も登録された。
この伝統を現代の暮らしに合わせて支えてきたのが、キムチ冷蔵庫(김치냉장고)である。韓国電力取引所(한국전력거래소)の資料を引いた研究によれば、世帯普及率は2000年の11%から、2011年には90%超にまで伸びた。2025年の韓国ギャラップ(한국갤럽)の調査でも保有率は85%に上る。ただ、一人暮らしの増加とともに、キムチは買って食べるものになりつつある。
7. 冬に気をつけたいこと
- PM2.5:寒い季節はPM2.5の濃度が高くなりやすい。政府は2019年から毎年12月〜3月を「微細粉塵季節管理制(미세먼지 계절관리제)」の期間とし、ソウルでは平日6時〜21時に排出ガス5等級の古い車の運行を制限している。マスクを一枚持っておくと安心だ。
- 凍った道:雪が解けて再び凍った歩道や坂道は滑りやすい。韓国語で「ピンパンギル(빙판길)」と呼ぶ。
- 水道の凍結:ソウル市は最低気温がマイナス10℃を下回ると水道メーターの凍結予報を「警戒」に、マイナス15℃を下回ると「深刻」に引き上げる。凍ってしまったらドライヤーや火気は使わず、50〜60℃の蒸しタオルで温めるよう呼びかけている。
8. 旅行者のための冬のコツ
- 重ね着が基本。外は東京の真冬より一段寒く、室内や地下鉄、空港は暖かい。脱ぎ着しやすい服装がいちばん楽である。
- 宿の暖房は床から。韓国式の宿やゲストハウスでは、壁のボイラーの操作パネルで温度を調整する。暑すぎたら下げればよい。床が温まるには少し時間がかかる。
- 床暖房は乾燥する。保湿クリームと、寝る前にコップ一杯の水を。
- 温まりたくなったら、チムジルバン(찜질방)も冬の強い味方である(別記事で紹介した)。
日本の読者へ
韓国の冬は寒い。けれど、家の中は驚くほど暖かく、外ではプンオッパンの湯気が待っている。寒さを数字で知っておけば、怖がる必要はない。
市場の屋台や秋夕(추석)の話は別の記事に書いたが、冬の韓国はまた違う顔を見せてくれる。宿や屋台で使える韓国語を四つ。
「보일러 좀 틀어 주세요(ボイラーをつけてください)」
「방이 너무 더워요(部屋が暑すぎます)」
「붕어빵 얼마예요?(プンオッパンはいくらですか)」
「핫팩 있어요?(カイロはありますか)」
※アイキャッチ画像:Bungeo ppang-Corée du Sud.JPG by Joriola(Wikimedia Commons、CC BY-SA 3.0)

コメントをどうぞ