韓国に着いて空港の到着ロビーに出ると、通信会社のカウンターがずらりと並んでいる。旅行者向けのSIMやeSIM、ポケットWi-Fiを受け取る人の列である。
韓国はスマホがないと何もできない国、とよく言われる。地図も、配達も、タクシーも、会員登録も、ほぼすべてがスマホと電話番号を前提に動いているからだ。この記事では、旅行者と長期滞在者それぞれのスマホの使い方と、なぜ韓国では電話番号がそこまで大事なのかを整理する。料金や制度は2026年10月時点で確認したものである。
1. 韓国の携帯会社は「3社+格安スマホ」
韓国の携帯電話会社は、SKテレコム(SK텔레콤/SKT)、KT、LGユープラス(LG유플러스/LG U+)の3社。日本のドコモ・au・ソフトバンクのような立ち位置である。
この3社の回線を借りて安いプランを売るのが、アルトゥルポン(알뜰폰/直訳すると「節約フォン」)。日本でいう格安SIM(MVNO)にあたる。
科学技術情報通信部(과학기술정보통신부/日本の総務省の通信部門にあたる)の統計では、2026年2月時点の携帯電話回線は約5,746万。シェアはSKTが39.00%、KTが23.30%、LG U+が19.58%、アルトゥルポンが18.09%で、ほぼ5回線に1回線が格安スマホという計算になる。
2. 旅行者の選択肢 ― SIM・eSIM・ポケットWi-Fi
短期旅行なら、選択肢は大きく三つある。
- 日本の携帯会社の海外ローミング:設定がいちばん楽で、日本の番号もそのまま使える。料金や条件は各社のプランで確認したい。
- 韓国の通信会社の外国人旅行者向けプリペイドSIM・eSIM:3社とも、空港のローミングセンター(로밍센터)や公式サイトで販売している。
- ポケットWi-Fi:韓国ではエッグ(에그/卵)とも呼ばれる。複数人で一台を共有できるのが利点である。
公式サイトで確認した価格の例を挙げておく(2026年10月16日時点、付加価値税込み)。
- SKT:LTEのデータ専用eSIMが1日6,500ウォン、5Gのデータ専用eSIMが1日9,500ウォン。3日以上のプランはLTEが1万8,000ウォンから、5Gが2万5,000ウォンから。LTEプランは最大100Mbpsでデータ量の上限なし、とされている。
- KT:データ専用eSIMは1日6,500ウォン、5日2万7,500ウォン、10日3万8,500ウォン。1日11GBを使い切ると、その日は5Mbpsに速度が落ちる。KTのポケットWi-Fiは1日4,400ウォン(最大20Mbpsで無制限)で、借りるには本人名義のクレジットカードが必要である。
両社とも、データ専用のeSIMはオンラインで買ってQRコードを読み込むだけで使える。一方、韓国の電話番号(010で始まる番号)付きの音声プランは、空港のカウンターなどでパスポートを確認してもらってから発信できるようになる。どちらも韓国で発行されたカードでは支払えない。
大事な注意点がある。SKTの案内には、旅行者向けプランでは本人認証(본인인증)や決済に関するSMSを受け取れないとある。KTの案内にも、eSIMは本人認証に対応していないと書かれている。つまり、旅行者向けの番号では、韓国の本人認証はできないと考えたほうがよい。この話は後半で触れる。
3. eSIMは2022年から
韓国でスマホのeSIMが使えるようになったのは、2022年9月1日から。科学技術情報通信部が通信会社やメーカーと協議して導入した。物理SIMとeSIMを組み合わせれば、一台で二つの番号を使うデュアルSIMもできる。
旅行者にとっては、日本の番号を物理SIMで残しつつ、韓国のデータ用eSIMを追加する使い方が便利である。ただし、端末がeSIMに対応していて、SIMロックが解除されていることが条件になる。
4. 長期滞在者(留学・ワーホリ)の携帯契約
韓国に90日を超えて滞在する外国人は、入国から90日以内に外国人登録をし、外国人登録証(외국인등록증)を受け取る必要がある。留学やワーキングホリデーの人は、これが携帯契約の大きな分かれ目になる。
- 入国直後:登録証ができるまでは、パスポートで使えるプリペイド(선불)のSIMでしのぐのが一般的である。上で紹介した旅行者向けのプランは、どちらの会社も90日以内の短期滞在者向けとされている。
- 登録証が出たあと:月々の後払い(후불)の契約がしやすくなる。
パスポートだけで後払いの契約をする方法もあるが、条件は厳しい。2026年8月の報道によれば、SKTの約款では、通信会社と提携している学校や派遣会社に属し、入学許可書などを出せる人に限られる。そのうえ、3か月以内に外国人登録証の情報で登録し直さないと、利用停止や解約になる。
さらに2026年7月6日からは、他人名義で契約された違法な携帯、いわゆるテポポン(대포폰)を防ぐため、新規契約の際に顔認証を段階的に導入している。政府は、外国人名義の回線についても身分証の確認と契約条件を強化する方針を示している。必要な書類は店によっても違うので、出かける前に確認しておきたい。
5. 2025年のSKT・USIMハッキング事件
2025年4月、SKTのサーバーがハッキングされ、USIMの情報が流出していたことが明らかになった。個人情報保護委員会(개인정보보호위원회)は、約2,324万人分の電話番号やUSIMの認証キーなどが流出したと判断し、2025年8月、過去最大となる約1,348億ウォンの課徴金を科した(SKTは取り消しを求めて提訴)。
無料のUSIM交換が始まった2025年4月28日には、全国の店に長い列ができ、在庫切れが相次いだ。USIMの大混乱(유심 대란)と呼ばれた騒ぎである。SKTは在庫不足のあいだ、USIM保護サービスへの加入をすすめ、政府の指導で新規契約の受付も一時止めた。政府の調査で会社の過失が認められ、事故後の一定期間に解約した人の違約金は免除された。
その後、2025年秋にはKTでも違法な小型基地局を使った不正決済事件が起き、政府はKTの過失を認め、全利用者が違約金免除の対象になると判断した。前の章で触れた契約時の顔認証も、身分証の偽造や個人情報流出が増えたことが背景にある。
6. スマホ購入の補助金ルールも変わった
2014年から続いた端末流通法(단말기유통법/略して단통법)が、2025年7月22日に廃止された。
これまでは、店が独自に上乗せできる補助金が、通信会社の公示補助金の15%までに制限されていた。廃止後はこの上限がなくなり、店や契約の種類によって補助金に差をつけることも認められた。ただ、廃止から1年がたった2026年7月には、販売店の業界団体から、高額プランへの誘導が相変わらずで消費者の恩恵はむしろ減ったという声も出ている。韓国で端末を買うなら、条件を何店かで比べるのがよい。
7. 無料Wi-Fiと、番号がないと困ること
韓国には自治体などが設置した無料の公共Wi-Fiがあり、各地でよく見かけるネットワーク名(SSID)は「Public WiFi Free」である。ソウル市は独自の名前を使っていて、2023年の市の案内では「SEOUL」と、暗号化された「SEOUL_Secure」(ID・パスワードはどちらも seoul)がある。市内バスにも無料Wi-Fiがある。ただし公共Wi-Fiで金融取引などはしないほうがよい。
一方で、Wi-Fiがあっても韓国の電話番号がなければ困る場面は多い。代表的なのが、会員登録やネットの買い物で求められる本人認証である。韓国の携帯は契約のときに身分証で名義を確認するので、番号に届くSMSの認証番号が、そのまま本人確認の代わりになる。電話番号が身分証のような役割を果たしているわけだ(詳しくは「本人認証ができない理由とパスポート認証」の記事で)。カカオトーク(카카오톡)の登録、配達アプリやタクシーアプリの利用も番号が前提になりやすい(それぞれ別の記事を参照)。交通カードのT-moneyは番号がなくても使えるので、旅行者はまずここから始めるとよい。
日本の読者へ
数日の旅行なら、データ専用のeSIMか、日本の携帯会社のローミングで十分である。仲間と一緒ならポケットWi-Fiもよい。韓国の番号が必要なのは、現地の人と電話する場合や、長く滞在する場合である。
長期滞在なら、まずプリペイドでつなぎ、外国人登録証が出たら後払いの契約へ、という順番を覚えておきたい。
空港や店で使える韓国語を三つ。
「유심 사러 왔어요(SIMを買いに来ました)」
「데이터만 쓰면 돼요(データだけ使えればいいです)」
「선불폰 개통하고 싶어요(プリペイドの携帯を契約したいです)」
※アイキャッチ画像:Incheon International Airport Terminal 1 Arrival 2.jpg by ノボホショコロトソ(Wikimedia Commons、CC BY 4.0)

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