韓国ドラマで、坊主頭の青年が家族に見送られて門の向こうへ消えていく場面。あるいは、好きなアイドルが突然「しばらく会えません」と手紙を公開する日。どちらも、韓国の兵役(병역)が背景にある。
日本には徴兵制がない。だからこそ、隣の国の20代男性が人生の1年半ほどを軍隊で過ごすという現実は、意外と知られていない。
1. 兵役は「国民の義務」
韓国の兵役法(병역법)では、大韓民国の国籍を持つ男性に兵役の義務がある。18歳で兵役準備役(병역준비역)に編入され、19歳になる年に、兵務庁(병무청/兵役を管理する専門の役所)で兵役判定検査(병역판정검사)を受ける。
検査の結果は身体等級で決まる。
- 1〜3級:現役(현역)。陸軍などで兵士として服務する。
- 4級:補充役(보충역)。主に社会服務要員(사회복무요원)として、役所や福祉施設などで働く。
- 5級:戦時勤労役(전시근로역)。平時は服務せず、戦時にのみ動員される。
- 6級:兵役免除(병역면제)。
- 7級:再検査。
2. どれくらいの期間、どこで過ごすのか
2026年現在、兵士の服務期間は次のとおりである。
- 陸軍・海兵隊:18か月
- 海軍:20か月
- 空軍:21か月
- 社会服務要員:21か月
2020年10月には、宗教や信念を理由に兵役を拒否する人のための代替役(대체역)が始まった。こちらは刑務所などの矯正施設で36か月、施設に住み込みで炊事・配食や施設管理などを担う。武器を扱う警備や、強制力を伴う業務は担当しない。最初の入所者は60人あまりで、大田(대전/テジョン)の教育センターで入所式が開かれた。期間が陸軍の現役のちょうど2倍にあたることから、懲罰的だという批判もあり、制度の見直しを求める声が続いている。
3. 兵士の給料は「月200万ウォン」時代へ
兵士の給料は段階的に引き上げられ、2025年には兵長(병장)の基本給が150万ウォンになった。
これに加えて、兵士の積立貯蓄に国が上乗せする支援金が月最大55万ウォン。合わせると、兵長は事実上最大で月205万ウォンを受け取れる計算になる。ただし、205万ウォンが毎月そのまま口座に振り込まれるわけではない。55万ウォンは積立を続けた場合の支援分で、途中で解約すれば受け取れない。
あまりに急な引き上げだったため、兵長の受取額が若手の下士官を上回るのではないかという懸念の声まで上がった。
4. いつ行くか ― 入隊のタイミングと大学生活
入隊時期は、ある程度自分で選べる。大学生なら在学中は入隊を延期でき、上限は学校の種類によって違う。4年制大学なら24歳、博士課程なら28歳までである。
在学中に入隊する場合は、大学に「軍休学(군휴학)」を申請し、除隊後に復学する。たとえば明知大学(명지대학교)では、軍休学は入隊日の2週間前から申請でき、一般休学の回数制限には含まれない。入隊後は、服務確認書を大学に提出する。同じ学年でも、男子学生だけが1年半ほど遅れてキャンパスに戻ってくることになる。
5. 兵役特例 ― メダリストとBTS
兵役には特例もある。芸術・体育要員(예술·체육요원)という制度で、対象はオリンピック3位以内、アジア大会1位、そして兵務庁が指定する国際芸術コンクールの2位以内などである。免除ではなく補充役として、4週間の基礎軍事訓練のあと、34か月間それぞれの分野で活動する。その間に544時間の奉仕活動も義務づけられている。なお、サッカーのワールドカップや野球のWBCは、2008年から対象外になった。
ここで議論になったのが、BTSである。クラシックのコンクールで優勝すれば特例があるのに、大衆音楽で世界的な成功を収めても対象にならない。この点が公平性の問題として長く議論された。
2020年12月には兵役法が改正され、国威発揚に大きく貢献したと認められた大衆文化芸術家は、30歳まで入隊を延期できるようになった。対象については、文化勲章や文化褒章を受けた人のうち、文化体育観光部(문화체육관광부)の長官が推薦した人とする方針が示された。韓国メディアはこれを「BTS法」と呼んだ。ただし特例そのものは認められず、2022年12月、最年長のJINが入隊したことで、議論にはひとまず区切りがついた。
6. 除隊後も続く義務
除隊すれば終わり、ではない。兵士として除隊した人は、その後8年間、予備軍(예비군)として訓練を受ける。その後は40歳になる年まで民防衛(민방위/有事に備える民間防衛組織)に編成される。
一方、かつてあった「軍加算点(군 가산점)」、つまり除隊者が公務員試験などで点数を上乗せされる制度は、1999年に憲法裁判所(헌법재판소)が違憲と判断し、廃止された。その後も復活をめぐる議論は繰り返し起きている。
兵役にまつわる韓国語を二つ紹介しておこう。
「군대 다녀왔어요?(軍隊に行ってきましたか)」
「군필이에요(兵役は済ませています)」
「군필(軍畢)」は、兵役を終えたことを表す言葉である。
7. 減り続ける兵力
いま韓国軍が直面しているのは、少子化である。国防部(국방부)と兵務庁の資料によれば、韓国軍の兵力は2019年の約56万人から、2025年7月には約45万人に減った。目安とされてきた50万人を下回っている。
兵力の減少にあわせて部隊の統廃合も進み、2006年に59あった師団級以上の部隊は42にまで減った。現役と判定される人の割合を高めるため判定基準も緩められ、現役判定率は69.8%から86.7%に上がったが、入隊する人の数そのものが減っているため、効果は限られているという。
20歳男性の人口も、2019年の約33万2,000人から2022年には約25万7,000人へ。2043年には約12万人まで減るという見通しもある。2026年10月の国政監査(국정감사/国会が行政機関の業務を毎年点検する制度)では、女性徴兵制も議題にのぼったが、兵務庁は検討していないという立場を示している。政府は当面、幹部(将校・下士官)に占める女性の割合を、2025年前半の11.5%から2027年には15.3%に高める計画である。
8. アイドルと「軍白期」
K-POPファンなら、「군백기(軍白期)」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。「군 복무로 인한 공백기(兵役による空白期間)」を縮めた言葉で、アイドルが入隊して活動が止まる期間を指す。
かつて軍白期は、ファン離れを心配する時期だった。いまは入隊前にコンテンツを撮りためて服務中に公開したり、メンバーが近い時期にまとめて入隊して空白を短くしたりと、各事務所がさまざまな工夫をしている。最近は、軍のミュージカルや陸軍の行事「地上軍フェスティバル(지상군페스티벌)」のステージに立つ姿が話題になり、兵役中にかえって注目を集めるケースもあると報じられている。
代表例がBTSである。JINは2022年12月、京畿道漣川(연천/ヨンチョン)にある陸軍第5歩兵師団の新兵教育隊に入隊し、助教(조교/新兵の訓練を補助する教官役の兵士)として服務して2024年6月に除隊した。SUGAは社会服務要員として服務し、2025年6月に召集解除。これでメンバー全員が兵役を終えた。
BIGBANGやSEVENTEEN、PSYの兵役については、それぞれの記事で詳しく紹介している。
日本の読者へ
日本には徴兵制がなく、自衛隊は志願者で成り立っている。そのため、同世代の男性がほぼ全員、ある年齢で一斉に生活を中断するという感覚は、日本ではなかなか想像しにくい。
けれども韓国では、入隊も除隊も人生の大きな節目である。韓国人の友人が除隊したら、こう声をかけてみてほしい。
「전역 축하해!(除隊おめでとう!)」
※アイキャッチ画像:2013.1.16 육군훈련소 훈련병 제식훈련 Rep.of Korea Army Training Center (8412339245).jpg by 대한민국 국군 Republic of Korea Armed Forces(Wikimedia Commons、CC BY-SA 2.0)

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