「アパート共和国」韓国 ― 国民の半分以上が住む団地型マンション(아파트)の暮らし。管理費、層間騒音、ブランド名、そして住宅価格

ソウル・蘆原区に立ち並ぶアパート団地

ソウルの空港から市内へ向かうバスの窓から見えるのは、同じ形の高層棟が何十棟も並ぶ風景である。初めて見ると、あれは全部マンションなのかと驚くかもしれない。

答えはイエスだ。韓国では、ああした団地に住むのがごく普通の暮らしなのである。

1. 「アパート」と「マンション」は逆になる

まず言葉の整理から。韓国語のアパート(아파트)は、日本でいうマンション、それも何棟もまとまった大規模団地のイメージに近い。法律上も、住宅として使う階が5階以上の共同住宅をアパートと呼ぶ。

一方、日本人がアパートと聞いて思い浮かべる低層の集合住宅は、韓国では多世帯住宅(다세대주택)や連立住宅(연립주택)にあたる。どちらも4階以下で、まとめてビラ(빌라)と呼ばれることが多い。

つまり、韓国人が「アパートに住んでいる」と言ったら、日本の感覚では「マンション住まい」なのである。

2. 数字で見る「アパート共和国」

国家データ処(국가데이터처、旧・統計庁)が2026年7月に発表した2025年人口住宅総調査(인구주택총조사、2025年11月1日時点)によると、全国の住宅は2,018万1,000戸。そのうちアパートは1,329万戸で、65.8%を占める。アパートに住む世帯の割合は54.5%である。

アパートに住む世帯が初めて半数を超えたのは、2018年の調査だった。

「アパート共和国(아파트 공화국)」という呼び方を広めたのは、フランスの地理学者ヴァレリー・ジュレゾ(발레리 줄레조)が2007年に韓国で出した同名の本である。1990年にソウルを訪れ、巨大な団地群に衝撃を受けたのが研究のきっかけだったという。彼女はアパート団地を、権威主義的な国家と財閥が手を組んで急成長を進めた韓国型発展モデルの象徴として描いた。

3. 団地の歴史 ― 麻浦から江南、そして新都市へ

  • 1962年:大韓住宅公社(대한주택공사)が麻浦(마포/マポ)アパートを完成させた。団地という形で建てられた最初のアパートとされる。高層住宅への不安や練炭ガスのうわさもあり、当初の入居率は1割に満たなかった。
  • 1970年代:漢江(한강/ハンガン)の南、盤浦(반포/パンポ)に大規模団地ができ、1974年にはソウル市が計画人口10万人の蚕室(잠실/チャムシル)団地の建設計画を発表した。江南(강남/カンナム)開発の時代である。
  • 1989年:住宅価格の高騰を受け、政府は住宅200万戸建設計画のもとで第1期新都市(1기 신도시)を進めた。同年4月に盆唐(분당/プンダン)と一山(일산/イルサン)の計画が発表され、盆唐では1991年に入居が始まった。
  • そして今:第1期新都市は入居から30年以上がたち、2024年4月に老朽計画都市特別法(노후계획도시 특별법)が施行された。団地をまとめて建て替える再建築(재건축)が各地で進んでいる。

4. 団地の暮らし ― 管理事務所から名前の長さまで

韓国のアパート団地には、管理事務所(관리사무소)があり、警備員(경비원)が常駐していることが多い。団地内には遊び場(놀이터)があり、団地によってはジムなどの共用施設(커뮤니티 시설)も備えている。ゴミの分別収集場(분리수거장)も団地ごとにある(分別のルールは、このブログのゴミの捨て方の記事で詳しく書いた)。

警備員の仕事については、2021年10月の法令改正で範囲が明文化された。分別収集の整理や宅配物の保管は認められる一方、各世帯への宅配物の配達や住民の車の代理駐車は原則としてさせてはいけない。

住所は「○○アパート 101棟(동)1503号(호)」のように、棟と号で表す。団地の中では、棟の番号が目印になる。

管理費(관리비)は、韓国不動産院(한국부동산원)の共同住宅管理情報システム(공동주택관리정보시스템、K-apt)によると、2024年の全国平均で1㎡あたり月2,920ウォン、ソウルは3,344ウォンだった。専有面積84㎡に換算すると、全国で月24万ウォン台、ソウルで約28万ウォンになる。

そしてブランド名。2000年代に入ると、建設会社がラミアン(래미안)、ザイ(자이)、ヒルステート(힐스테이트)といったブランドを付け始めた。さらに上位ブランドや、近くに川がなくても付く「リバー」のような愛称が重なり、名前はどんどん長くなった。不動産情報会社の調査では、アパート名の平均文字数は1990年代の4.2字から、2019年には9.84字になった。ソウル市は2024年、難しい外国語や愛称を控えるよう求めるガイドラインを出している。

5. 層間騒音 ― 団地の大きな悩み

上の階の足音や子どもが走る音、いわゆる層間騒音(층간소음)は、韓国のアパート生活で最も大きな悩みの一つである。かかとで床を叩くように歩く音は、パルマンチ(발망치/足のハンマー、ドスドス歩き)と呼ばれる。

韓国環境公団(한국환경공단)の層間騒音イウッサイセンター(층간소음 이웃사이센터)に寄せられた電話相談は、2023年が3万6,435件、2024年が3万3,027件、2025年が3万2,662件。2020年〜2025年7月の現場診断では、原因の68.6%が走る音や歩く音だった。

基準も厳しくなった。2023年1月から、足音などの直接衝撃騒音の基準(1分間の等価騒音レベル)が、昼43dBから39dB、夜38dBから34dBへと4dBずつ引き下げられた。

6. 住宅価格 ― ソウルのアパートは平均13億ウォン台

韓国不動産院の調査では、2026年9月のソウルのアパートの平均売買価格は13億7,007万ウォン、価格の中央値は10億8,600万ウォンだった。

2020〜2021年ごろには、ヨンクル(영끌/魂までかき集める)という言葉が広まった。持てるお金も借りられるローンもすべてかき集めて家を買う、という意味で、特に20〜30代の購入が目立った。

新築アパートを買う代表的な方法が、請約(청약/分譲の申し込み)である。加点制では、無住宅期間(最大32点)、扶養家族の数(最大35点)、請約通帳(청약통장/申し込み用の積立口座)の加入期間(最大17点)の合計84点満点で競う。人気の団地では高得点でも当たらない。

なお、韓国独特の賃貸方式チョンセ(전세)については、別の記事で詳しく書いている。

7. 旅行者がアパートに泊まるとき

韓国ドラマでもアパートはおなじみの舞台である。2020年のSBS『ペントハウス(펜트하우스)』は、超高級マンション「ヘラパレス(헤라팰리스)」に住む人々の欲望と復讐を描き、最高視聴率は20%を超えた。

最近は民泊でアパートに泊まる旅行者もいる。注意したいのは次の点である。

  • 合法な宿か確かめる:Airbnbは2024年7月、営業届のない宿を順次掲載から外すと発表し、既存の宿にも2025年末までに営業届の情報を出すよう求めた。届け出のできないオフィステル(오피스텔/住居としても使えるオフィス用建物)は全面的に外される。予約前に営業届の表示を確認したい。
  • 足音に気をつける:夜は特に、かかとから歩かない。スーツケースを転がす音も下の階に響く。
  • ゴミは団地のルールで:分別収集場の場所と出し方を、ホストに確認しておく。
  • 共同玄関の暗証番号:エントランスが暗証番号式の団地もある。教えてもらった番号は他人に伝えない。

日本の読者へ

日本の団地というと、昭和の古い建物を思い浮かべる人も多いだろう。だが韓国のアパートは、今も多くの人にとって住まいであると同時に、大きな資産でもある。

ソウルを歩くとき、高層棟の壁に大きく書かれたブランド名と棟番号を眺めてみてほしい。そこに、1962年の麻浦アパートから続く、韓国の60年あまりが詰まっている。

覚えておくと便利な韓国語を二つ。

「몇 동 몇 호예요?(何棟何号ですか)」
「공동현관 비밀번호가 뭐예요?(共同玄関の暗証番号は何ですか)」

※アイキャッチ画像:Wide view of Nowon-gu Apartment buildings.jpg by Ox1997cow(Wikimedia Commons、CC BY-SA 3.0)

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