Uptownとユン・ミレを韓国側から見る ― 15歳で年齢を偽ってデビューしたラッパーが、「韓国最高の女性ラッパー」と呼ばれるまで

ユン・ミレとTiger JK(2022年)

今の韓国では、ラッパーがオーディション番組で有名になり、音源チャートの1位を取るのは珍しいことではない。だが、Mnetの『SHOW ME THE MONEY(쇼미더머니)』が始まるずっと前、ヒップホップは歌謡界の中で居場所を探している途中だった。このシリーズでは、その時代の韓国ヒップホップを4組のアーティストからたどってみる。1回目はUptown(업타운)と、そのメンバーだったユン・ミレ(윤미래)である。全体の流れは、以前書いた韓国ヒップホップの歴史の記事にまとめてある。

1. ラップが「歌謡の飾り」だったころ

1990年代の半ばから後半にかけて、韓国でヒップホップに夢中になった若者たちは、パソコン通信(PC통신)の同好会で情報を交換していた。新村(신촌)のクラブ「マスタープラン(마스터플랜)」には腕のあるラッパーが集まり、アンダーグラウンドの文化が育っていった。一方でテレビの歌謡番組では、ラップは長いあいだ「大衆歌謡の装飾品」のように扱われていた、とソウル新聞(서울신문)は振り返っている。

Uptownがデビューしたのは、そんな1997年である。1stアルバム『Represent』のタイトル曲は「Back to Me(다시 만나줘)」。中心になったのはプロデューサーでもあるチョン・ヨンジュン(정연준)。彼とカルロス(카를로스)、スティーブ・キム(스티브 김)、そしてタシャ(타샤)ことユン・ミレの4人による、男女混成のグループだった。下は1997年3月、MBCの歌番組のステージである。

2ndアルバムのタイトル曲「You Inside Me(내 안의 그대)」も、同じ1997年の秋には歌番組で歌われている。

2. 15歳を19歳と偽って

ユン・ミレは、韓国人の母と在韓米軍にいた父のあいだに生まれた。父の仕事の都合で、生まれたのはアメリカのテキサス州。ドイツで暮らしたこともあり、韓国とも行き来しながら育った。父はDJとしても活動し、レコードを3万枚ほど持っていたそうで、彼女はマドンナやプリンス、アル・グリーンを聴きながら育ったという。

韓国では、外見をからかわれた。アメリカ人なのか、韓国人なのか、黒人なのか。子どものころ、そうしたアイデンティティの揺らぎを抱えていたと韓国メディアは伝えている。

事務所と契約したのは13歳、テレビに出たのは15歳のときだった。プロフィールでは19歳とされ、父は祖父ということにされた。2007年のインタビューで、彼女はこう話している。

「열아홉 살로 속이고… 그냥 답답했어요(19歳と偽って……ただ、もどかしかった)」

その後、Uptownは麻薬事件で活動が止まる。2000年ごろ、メンバーの一部が麻薬に関わった容疑で捜査を受け、アメリカ国籍のスティーブ・キムとカルロスは国外へ追放された。ユン・ミレ自身は調べを受けたものの、嫌疑なしとされている。

3. タシャニ、そして「t」へ

ユン・ミレはUptownを離れ、1999年にアニー(애니)と女性デュオのタシャニ(타샤니)を組んだ。代表曲は「Day by Day(하루하루)」と「경고(警告)」である。

ちなみに2018年、KBS2『ハッピートゥゲザー3(해피투게더3)』で、ユン・ミレはこんな話をしている。Uptownのあとには「Uptown Girl(업타운걸)」として女性グループでデビューする予定があり、そのメンバーにはイ・ヒョリ(이효리)がいた。ところがある日テレビをつけると、イ・ヒョリ本人が「Fin.K.L(핑클)のリーダー、イ・ヒョリです」とあいさつしていて驚いた、という。タシャニの相方アニーも、もともとはFin.K.Lのデビュー候補だったそうだ。

2001年、彼女はソロ歌手「t」として再出発する。ベビーT(베이비티)という愛称を縮めた名前だ。プロデュースはパク・グンテ(박근태)。タイトル曲「As Time Goes By(시간이 흐른 뒤)」について、評論家のオ・グァンス(오광수)は京郷新聞(경향신문)で、ヒップホップ時代の攻撃的な歌い方ではなく、柔らかく気品のある歌い方で聴き手を引き込むと書いた。

同じ1stアルバムには「삶의 향기(人生の香り)」も入っている。下は2002年、KBS2『ユン・ドヒョンのラブレター(윤도현의 러브레터)』でのステージだ。

2002年にはヒップホップアルバム『Gemini』を出した。「Memories」はこのアルバムの収録曲である。下は2016年、SBS『ファンタスティック・デュオ(판타스틱 듀오)』で一般の参加者と歌った映像だ。

同じ年の暮れには2ndアルバム『To My Love』を出し、タイトル曲で活動した。

ヒップホップから出発した彼女は、ここでR&Bの歌い手としての顔も手に入れた。日本との縁もある。2001年の記事には、日本でシングルを出し、5月の日本公演で現地の音楽関係者から好評を得たとある。日本の歌手DOUBLEとの共演曲「DOUBLE TROUBLE」もある。

4. 「Black Happiness」と自分の名前

その後、前の事務所との訴訟で、数年間は思うように音楽活動ができなかった。2007年に出た3rdアルバムのタイトルは、本名をそのまま使った『YOONMIRAE』である。タイトル曲は「잊었니(忘れたの?)」。

しかし、発売と同時にメディアが注目したのは「Black Happiness(검은 행복)」のほうだった。年齢を偽ってデビューした事情や、ミックスルーツとして生きてきた痛みを歌った曲で、最後には父トーマス・J・リード(토머스 J 리드)の語りが入っている。

ただ、本人の思いは少し複雑だった。先に触れた2007年のインタビューでは、音楽が抜け落ちて、ミックスルーツのことばかりに関心が集まるのが残念だ、とも話している。このアルバムで、彼女は翌2008年の第5回韓国大衆音楽賞(한국대중음악상)を受賞している。

2007年には、Drunken Tiger(드렁큰 타이거)のTiger JK(타이거 JK)と結婚している。夫婦の話やMFBTYのことは、次回のDrunken Tigerの記事で触れたい。

5. 「ドラマOSTの人」としてのユン・ミレ

2010年代に入ると、ユン・ミレの声はドラマを通じて広く届くようになる。SBS『主君の太陽(주군의 태양)』のOSTとして2013年8月28日正午に公開された「Touch Love」は、2時間でMelon、Mnet、Bugsなど8つのリアルタイム音源チャートの1位に立った。この年のMAMAでは、ベストOST賞を受けている。

2014年にはSBS『大丈夫、愛だ(괜찮아 사랑이야)』のOST「I Love You(너를 사랑해)」が、ガオンチャート(가온차트)の週間デジタル総合で1位になった。

2016年のKBS2『太陽の末裔(태양의 후예)』では、OSTの第1弾「Always」を歌った。Melonのチャートでは、この作品のOSTが1位から6位を独占し、その中にこの曲も入っていた。

2011年には、Mnetのオーディション番組『スーパースターK3(슈퍼스타K3)』の審査員にも選ばれた。このときMnetは、彼女のステージ掌握力とパフォーマンスは最高だと紹介している。

6. Uptownのその後

Uptownは、2006年にユン・ミレの代わりにJessi(제시)を迎え、5thアルバム『My Style』で戻ってきた。2010年の『Uptown 7(Surprise!)』のあと、2023年12月には13年ぶりのアルバム『Back II Analog』を出している。結成時のメンバーで残っているのはチョン・ヨンジュンだけで、元SPICAのルビ(루비)と、客演のベイビロン(베이빌론)が加わった。「Back to Me」の再録音も収められている。チョン・ヨンジュンは当時のインタビューで、Uptownのアイデンティティは自分でもほかの誰でもなく、音楽そのものだと語っている。

7. 「第2のユン・ミレ」と呼ばれることの重さ

韓国で女性ラッパーが話題になるたびに、名前が出てくるのがユン・ミレである。2015年、テンアジア(텐아시아)は彼女を「自他ともに認める最高の女性ラッパー」と書いた。同じ年、フランスのリベラシオン紙は、ときにローリン・ヒルと比べられるアーティストとして紹介している。

2015年にはMnetの女性ラッパー番組『UNPRETTY RAPSTAR(언프리티 랩스타)』が始まり、出演者の多くが尊敬するラッパーとしてユン・ミレの名前を挙げた。本人はそれについて、うれしくないと言えばうそになるがプレッシャーもある、自分もまだ学んでいる途中だと答えている。

2018年には、16年ぶりのヒップホップアルバム『Gemini 2』を出し、12年ぶりの単独公演をソウルの奨忠体育館(장충체육관)で開いた。韓国メディアは彼女を「黒人音楽の女帝」と呼んだ。後輩たちに向けた言葉は短い。「Be Yourself」である。

若い世代がタシャニの曲を歌うこともある。2022年の『KBS歌謡大祝祭(KBS 가요대축제)』では、ITZYのリュジン(류진)とチェリョン(채령)が「경고」を歌った。2024年には、KBS2『The Seasons ― イ・ヨンジのレインボー(더 시즌즈-이영지의 레인보우)』で、お笑い芸人のイ・ウンジ(이은지)がラッパーのイ・ヨンジ(이영지)と同じ曲を歌っている。

2025年の経済紙マネートゥデイ(머니투데이)の記事は、韓国の女性ラッパーの系譜を、伝説的な第1世代としてのユン・ミレから書き起こしている。『SHOW ME THE MONEY』で女性ラッパーとして番組史上最高となる準優勝を果たしたSINCE(신스)も、その流れの中で語られていた。

本人の活動も続いている。2025年12月23日には、夫婦で作詞・作曲したアコースティックR&B「Breath(숨)」を出した。

2026年8月20日には、Tiger JKとの8年ぶりのデュエット曲「Let Me Love You」を発表し、夏のフェス「WATERBOMB」のステージにも立った。

日本の読者へ

ユン・ミレの名前を、日本では『太陽の末裔』や『主君の太陽』のOSTで知った人も多いかもしれない。だが韓国では、もっと前から知られていた。15歳で年齢を偽って歌番組のステージに立ち、ソロ歌手「t」としてR&Bを歌い、自分のルーツを「Black Happiness」で歌った人である。韓国ヒップホップがまだ主流ではなかった時代から、ずっと第一線にいる。

最初に聴くなら、次の5曲をすすめたい。

  • 「Back to Me(다시 만나줘)」(Uptown)
  • 「경고(警告)」(タシャニ)
  • 「As Time Goes By(시간이 흐른 뒤)」
  • 「Black Happiness(검은 행복)」
  • 「Touch Love」

次回は、彼女の夫Tiger JKが率いたDrunken Tigerである。

※アイキャッチ画像:2022 KATUSA’s Got Talent – 041.jpg by Sgt. Estevan Hidalgo(U.S. Army、Wikimedia Commons、パブリックドメイン)

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