1999年、韓国の歌謡界に、ヒップホップを正面から掲げる2人組が現れた。Drunken Tiger(드렁큰 타이거)である。以前書いた韓国ヒップホップの歴史の記事でも名前を挙げたが、今回はこのグループと、リーダーのTiger JK(타이거 JK)が韓国でどう受け止められてきたのかを、『SHOW ME THE MONEY(쇼미더머니)』がなかった時代から今までたどってみる。
1. 1999年、「お前らにヒップホップが分かるか」
Tiger JKの本名はソ・ジョングォン(서정권)。父のソ・ビョンフ(서병후)は、韓国初のポップ・コラムニストと呼ばれた人である。Tiger JKは小学生のときに家族で渡米し、ロサンゼルス暴動のあった1992年には、ヒップホップのフェスティバルで即興ラップの賞を受けた。
1997年に帰国したが、最初は路上や老人ホームで歌うしかなかった。放送局では差別的な扱いや暴言も受けたという。見下してくる相手に、父の勧めで言い返した一言が「お前らにヒップホップが分かるか(너희가 힙합을 아느냐)」だった。この言葉が、1999年、DJ Shine(DJ 샤인)と組んだDrunken Tigerの1stアルバム『Year of the Tiger』の収録曲の題名になる。
同じアルバムの「君が欲しい(난 널 원해)」は、今も代表曲として名前が挙がる。Tiger JKはのちに、デビュー当時から自分たちは「非主流音楽の代表(비주류 음악의 대표)」だという誇りがあったと振り返っている。
2. 歌謡番組に立つヒップホップ
Drunken Tigerは、MBC『音楽キャンプ(음악캠프)』のような歌謡番組にも、本場仕込みのヒップホップのまま出ていった。2000年の2ndアルバムの「偉大なる誕生(위대한 탄생)」を歌う映像が残っている。
2001年3月には3rdアルバムを出し、タイトル曲「Good Life」がヒットした。この時期、Tiger JKは薬物使用の容疑で逮捕され、執行猶予付きの判決を受けている。京郷新聞(경향신문)のインタビューで彼は、つらい経験から多くを学んだと語り、記事は歌詞が批判から「暗闇の中の希望」へ変わったと書いた。同じ記事には、人気のヒップホップグループを取材するたびに一番実力のあるグループを尋ねると、決まって最初に名前が挙がるのがDrunken Tigerだった、という一文もある。前年には香港、日本、北京、ニューヨークで単独公演を開いていた。
3. ムーブメント・クルーと、DJ Shineの脱退
2000年代に入ると、Drunken Tigerを中心にクルー「ムーブメント(무브먼트)」ができる。ユン・ミレ(윤미래)、リッサン(리쌍)、Dynamic Duo(다이나믹 듀오)、Epik High(에픽하이)らが集まった。2004年のKBS『ユン・ドヒョンのラブレター(윤도현의 러브레터)』では、Dynamic Duoやリッサンと一緒に「Good Life」を歌っている。Dynamic Duoについては11月4日の記事で詳しく書く。
2005年、DJ Shineがグループを離れた。以後、Tiger JKは1人でDrunken Tigerの名前を背負うことになる。同じ年のアルバム『1945 解放(1945 해방)』の「Isolated Ones, Left Foot Forward!(소외된 모두, 왼발을 한 보 앞으로!)」は、T名義のユン・ミレと歌った曲である。題名は「取り残された皆、左足を一歩前へ!」という意味だ。
4. 脊髄炎、結婚、そして「8:45 Heaven」
2006年、Tiger JKは脊髄炎(척수염)と診断された。最初は椎間板ヘルニアとして治療していたが、脚がしびれて立てなくなり、大きな病院で病名が分かったという。下半身にまひが広がり、ステロイドの副作用で顔も体も大きくむくんだ。5月のムーブメントのコンサートには医師の反対を押し切って出演し、むくんだ顔から病気が知られることになった。それでも同じ年の12月には、ゴールデンディスク賞(골든디스크)のステージでライブを披露している。前の事務所を離れ、仲間とジャングル・エンターテインメント(정글엔터테인먼트)を立ち上げたのもこのころである。
2007年6月、ユン・ミレとひそかに結婚した。体調のため、祖母や近い親族だけの小さな式だった。翌2008年3月には息子のジョーダン(조단)が生まれている。ユン・ミレのソロについては前回の記事を読んでほしい。
2007年の7thアルバム『Sky Is The Limit』からは「8:45 Heaven」が生まれた。Tiger JKは2009年のインタビューで、病気は良くならず、レコード業界も崩れかけていて、長いスランプに陥っていたと振り返っている。そこへ「8:45 Heaven」が思った以上に多くの人に愛され、力をもらった。ちょうど子どもが生まれたころだったという。
5. 2009年の『Feel gHood Muzik』とZeebra
2009年の8thアルバム『Feel gHood Muzik : The 8th Wonder』は2枚組で、アメリカのヒップホップの大御所ラキム(Rakim)が「Monster」の英語版に参加した。日本のZeebraが参加した「Jet Pack」も入っている。Tiger JKによれば、Zeebraとは、彼の韓国公演で前座を務めたのがきっかけで友人になったという。映像は、SBS『人気歌謡(인기가요)』の「Monster」である。
Zeebraの公式チャンネルには、2009年にソウルのウォーカーヒル・シアター(워커힐 시어터)でTiger JK、ユン・ミレと共演した映像も上がっている。2010年のMnet Asian Music Awardsでも、ZeebraはDrunken Tigerと同じステージに立った。
6. MFBTY、「The Cure(살자)」、そしてFeel Ghood Music
2013年1月、Tiger JKはユン・ミレ、ビジ(비지)とMFBTYを結成する。最初の曲「Sweet Dream」は韓国の音源チャートで1位になり、フランスの音楽見本市MIDEMにも出演した。
同じ年の9月には、3人でDrunken Tiger名義のアルバム『The Cure』を出す。タイトル曲の「The Cure(살자)」の意味は「生きよう」。がんと闘っていた父に向けた曲で、ジャケットの「살자」の文字は父が書いた。父は2014年2月、72歳で亡くなった。
Tiger JKは2021年のインタビューで、前の事務所との争いに脊髄炎の再発と父の死が重なり、自ら命を絶つことまで考えたと明かしている。2014年11月、3人は新しいレーベル、Feel Ghood Music(필굿뮤직)を立ち上げる。2015年3月にはMFBTYの1stアルバム『Wondaland』を出した。映像は同じころの「Bang Diggy Bang Bang(방뛰기방방)」である。
7. 批判していた『SHOW ME THE MONEY』へ
『SHOW ME THE MONEY』が始まると、Tiger JKは番組に批判的だった。ディスを中心にした放送が、ヒップホップをけんかのジャンルにしてしまうと考えたからだ。制作陣からは何年もプロデューサーとして声がかかったが、断り続けた。
その彼が2017年の『SHOW ME THE MONEY 6』に、ビジと組んでプロデューサーとして出演する。チームからはウ・ウォンジェ(우원재)やブラックナイン(블랙나인)が注目を集めた。出演料は全額、未婚の母や養子縁組の支援に寄付した。Dynamic Duoのゲコ(개코)は、Tiger JKらが出ると聞いて自分も出演を決めたと話している。
8. 2018年、Drunken Tigerを「タイムカプセル」に
2018年4月、Tiger JKはこの年のアルバムを最後にDrunken Tigerの名前を使わないと発表した。11月14日に出た10thアルバム『Drunken Tiger X : Rebirth of Tiger JK』は、2枚組30曲。タイトル曲は「Mantra(끄덕이는 노래)」である。
BTSのRMが参加した「Timeless」は、18か国のiTunesソングチャートで1位になった。Tiger JKは、Drunken Tigerは扉を閉めてタイムカプセルに入れるべきタイミングだと思った、と語っている。だらだら続けて名前を汚すより、きれいに終わらせたかったという。ファンには、いい音楽を聴かせてくれたグループとして覚えていてほしい、と話した。
9. 2020年代のTiger JK
グループ名に幕を下ろしても、Tiger JKの活動は続いている。2023年4月には、KBS『ザ・シーズンズ ― パク・ジェボムのドライブ(더 시즌즈-박재범의 드라이브)』に出演し、「8:45 Heaven」「お前らにヒップホップが分かるか」「Good Life」「Monster」を続けて歌った。
2026年8月20日には、ユン・ミレとのデュエット曲「Let Me Love You」を出した。2人が同じ曲で歌うのは、2018年の最後のアルバム以来、約8年ぶりである。作詞・作曲も2人で手がけ、夏のフェスティバル「WATERBOMB」のステージにも立った。
日本の読者へ
韓国のメディアは今もDrunken Tigerを、韓国ヒップホップの大衆化を牽引し、その歴史を築いたグループとして紹介する。デビュー当時、Tiger JK自身は自分たちを非主流の代表だと思っていた。オーディション番組がなかった時代に、アルバムとステージだけで居場所を作ったグループである。
最初に聴くなら、次の5曲をすすめたい。
- 「お前らにヒップホップが分かるか」
- 「Good Life」
- 「8:45 Heaven」
- 「Monster」
- 「The Cure」
次回は、同じ時代のラッパー、Verbal Jint(버벌진트)を取り上げる。
※アイキャッチ画像:181202 드렁큰타이거 AK플라자 분당점 팬싸인회 2.jpg by Explicit(Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0)

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