韓国の11月はキムジャンの季節 ― 白菜を何十株も漬ける冬支度と、漬けずに買う時代

キムジャンで白菜に薬味を塗る家族

秋が深まると、韓国のスーパーやネット通販では塩漬け白菜の予約販売が始まり、「김장(キムジャン)」と銘打ったセールが並ぶ。テレビのニュースでは毎年、その年の白菜の値段が伝えられる。

キムジャンとは、冬のあいだに食べるキムチを一度にまとめて漬ける行事のことだ。韓国の冬の越し方は別の記事で紹介したが、今回はこのキムジャンを、韓国の報道や公的機関の資料で確認できた範囲で掘り下げてみたい。

1. キムジャンとは ― 立冬のころの冬支度

韓国学中央研究院(한국학중앙연구원)の『韓国民族文化大百科事典(한국민족문화대백과사전)』によれば、キムジャンは立冬(입동)のころに、冬から春まで食べるキムチを一度に漬ける風習で、一年の大事な生活行事とされてきた。国家記録院(국가기록원)の資料は、高麗時代の文人・李奎報(이규보)の記録から、高麗のころにはすでに行われていたとしている。

準備は半年以上前から始まる。春に塩とにんにくを用意し、夏に唐辛子を干して粉にし、秋にはカタクチイワシの魚醤(멸치액젓)を仕込む。昔は漬けたキムチをかめ(김칫독)に入れ、男たちが掘った穴に埋めて、冬のあいだ低い温度で保存した。

漬ける時期は気温で決まる。韓国気象庁(기상청)は、一日の最低気温が0℃を下回り、平均気温が4℃以下の日が続くころを適期と説明している。暖かすぎるとキムチがすぐに酸っぱくなり、寒すぎると白菜や大根が凍ってしまうからだ。

2. 漬け方と材料

国家記録院の資料によると、基本の流れは二日がかりである。一日目に、一方で白菜を塩に漬け(절이기)、もう一方で薬味を作る。翌日、漬けた白菜を薬味と和えてキムチにする。

主な材料は白菜と大根で、薬味には唐辛子、ねぎ、にんにく、しょうが、そしてアミの塩辛(새우젓)やカタクチイワシの魚醤などの塩辛類(젓갈)を使う。白菜の葉の間に挟む薬味は、キムチの「中身」という意味でキムチソ(김칫소)と呼ばれる。地方によって味は違い、北部は塩気を控えめにしてアミやイシモチの塩辛を、南部は塩気を強くしてカタクチイワシの塩辛を多く使う。

百科事典によれば、キムジャンをする家は手伝いに来た人たちに、白菜のスープやゆで豚(수육)、白菜の内側の柔らかい葉と薬味をふるまった。終わったあとは、塩漬けの白菜や薬味、浅漬けのキムチ(겉절이)を近所に分けたという。

3. いくらかかるのか

民間の調査機関、韓国物価情報(한국물가정보)が2025年11月に発表した調査では、4人家族のキムジャン(白菜20株、大根10本、長ねぎ2束、天日塩5kg、アミの塩辛1kgなどを基準)の材料費は、在来市場で33万8,500ウォン、大型スーパーで40万4,280ウォンだった。韓国農水産食品流通公社(한국농수산식품유통공사、aT)が主要14品目で調べた2025年11月の費用は20万1,151ウォンで、前年より5.6%下がった。調べる品目と量が違うので、二つの数字は単純には比べられない。

2026年分の費用調査は、10月末の時点ではまだ発表されていない。ただ材料の値動きは報じられている。aTによると、10月16日時点の白菜の小売価格は1株5,557ウォンで、1年前より10.3%安い。韓国農村経済研究院(한국농촌경제연구원)は、今年の秋白菜の生産量を前年より19.3%多い122万2,000トンと見込んでいる。その一方で、報道によればアミの塩辛は1kgあたり2万269ウォンで、1年で32.5%も値上がりした。白菜は安いのに薬味が高い、というのが今年の構図である。

4. 家族と近所が集まる日

キムジャンは量が多いので、一つの家族だけでは手が足りない。そこで昔から、近所どうしで手伝い合い、漬けたキムチを分け合ってきた。

この営みが認められ、「キムジャン、韓国のキムチ作りと分かち合い(김장, 김치를 담그고 나누는 문화)」は2013年12月5日にユネスコ無形文化遺産に登録された。キムチという食べ物そのものではなく、一緒に漬けて分け合うという文化が登録されたわけだ。

国内では、2017年11月15日に「キムチ漬け(김치 담그기)」が国家無形遺産(국가무형유산)に指定された。親族や村、近所の結びつきを強める協同と分かち合いの文化である点が評価された。全国の家庭で受け継がれてきた生活の習慣なので、特定の技能保持者は認定されていない。2023年12月には、ユネスコ登録10周年を記念して、当時の文化財庁(문화재청、現在の国家遺産庁〈국가유산청〉)が外国人広報団なども招いてキムジャンを行い、漬けたキムチをソウル中区の高齢者施設に贈っている。

5. 漬けるより買う時代へ

ただ、キムジャンの規模は小さくなっている。韓国農村経済研究院の2025年の調査では、キムチを家で直接漬けると答えた人は62.3%で、前年より2.2ポイント減った。市販のキムチを買うと答えた人は29.5%から32.5%に増えている。4人家族あたりのキムジャンの量も、2020年の21.9株から2025年には18.3株に減った。

漬ける家でも、手間のかかる部分は外に任せるようになった。同じ調査で、自分で漬ける人が買う白菜のうち、塩漬けまで済ませた白菜(절임배추)の割合は58.9%に達した。理由は「塩漬けが面倒だから」が55.8%、「時間の節約」が32.5%である。

小売店の動きもこれを裏づける。2026年10月の韓国経済新聞(한국경제신문)によると、イーマート(이마트)では1〜9月の1kg以下の小容量パックキムチの売上が前年より6.6%伸びた。先の調査でも、市販のキムチを買う理由は「必要な分だけ買えるから」(39.5%)が最も多かった。

かめに代わってキムチの保存を担うようになったのが、キムチ冷蔵庫(김치냉장고)である。1995年11月に発売された「ディムチェ(딤채)」が代表的な製品で、国家記録院の資料も、今は土に埋めるかめではなくキムチ冷蔵庫を使うと説明している。普及率の推移は冬の記事に書いたので、そちらを参照してほしい。

6. キムジャンのあとの「名節並み」の疲れ

何十株もの白菜を運んで塩に漬け、薬味と和える。キムジャンは重労働である。キムジャンのあとに腰や手首、ひざが痛くなることを、韓国では俗に「キムジャン症候群(김장 증후군)」と呼ぶ。正式な病名ではない。

食品メーカーの大象(대상)が2019年10月に自社ブログで主婦3,115人に聞いた調査では、キムジャン経験者の53.4%が、キムジャンの疲れはほかの家事のなかで名節(명절、旧正月や秋夕〈추석〉)の料理の準備にいちばん近いと答えた。韓国には、名節の準備や親戚づきあいで心身が疲れることを指す「名節症候群(명절 증후군)」という言葉があるが、キムジャンもそれに並ぶ負担だというわけだ。また、24.8%がキムジャンのあとに病院に行ったことがあり、痛む部位は腰(44.4%)、手首(23.3%)の順だった。企業がネットで集めた回答なので、主婦全体を代表する数字ではない点には注意したい。

7. 旅行者も参加できるキムジャン祭り(2026年)

自分でもやってみたい人には、各地のキムジャン祭りがある。2026年は次の日程が発表されている。

  • 槐山(괴산/クェサン)キムジャン祭り(忠清北道):11月5〜8日、10〜20時。会場は槐山有機農エキスポ広場一帯など。事前に予約した塩漬け白菜と薬味で漬けて持ち帰るほか、車を止めてブースで漬け、そのまま積んで帰るドライブスルー型もある。
  • 平昌(평창/ピョンチャン)高冷地キムジャン祭り(江原特別自治道):11月4〜16日、9〜17時。塩漬け白菜7kgと薬味3kgの基本セットが6万9,000ウォン。
  • 益山(익산/イクサン)K-キムジャン文化祭り(全北特別自治道):11月21〜22日。体験は先着順の事前申し込み制で、塩漬け白菜7kgと薬味3.5kgのセットが7万7,000ウォン。

案内はいずれも韓国語が中心で、外国語での対応があるかどうかは確認できなかった。参加するなら、韓国語のわかる人と一緒に行くか、事前に主催者へ問い合わせておくと安心である。ちなみに、11月22日は法律で定められた「キムチの日(김치의 날)」で、毎年この時期にはキムチにまつわる行事が増える。

日本の読者へ

キムジャンは、ただの漬物作りではない。家族や近所が集まり、漬けたキムチを分け合う、冬の入口の行事である。漬ける家は減り、塩漬け白菜やパックキムチに頼る家も増えたが、11月になると白菜の値段がニュースになる国であることは今も変わらない。

韓国の友人からキムジャンに誘われたら、ぜひ参加してみてほしい。ゴム手袋をはめて白菜に薬味を塗り、最後にゆで豚をキムチで包んで食べる。それだけで、韓国の冬の始まりを肌で感じられるはずだ。使える韓国語を三つ。

「김장 도와드릴게요(キムジャン、手伝います)」
「간 좀 봐 주세요(味見をしてください)」
「수육이랑 먹으니까 진짜 맛있어요(ゆで豚と一緒に食べると本当においしいです)」

※アイキャッチ画像:김치 김장 Making kimchi IMG 2917.jpg by Anattadairy(Wikimedia Commons、CC0)

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